あなたの手を取って9

 翌朝、僕は大きな叫び声に叩き起こされた。
びっくりして飛び起きたが体が軋んで痛くてたまらない。狭い場所に体を丸めるようにして寝ていたからだろう、関節がぎしぎしと鳴っている。
 悲鳴が聞こえた場所は言わずもがな、寝室だった。
慌ててその場所に走っていけば、扉の向こうから何だこれは、とか、どこだここ、と焦った彼の声が聞こえてきて。

「おはようございます……」

 入るのに勇気がいったが、恐る恐る扉を開けて中を覗き込む。
そこには布団から辛そうに起き上がっている彼がいて。

「こ、古泉せんせ……?」
「あの、えっと……」
「あ、あの!すすす、すみません!俺、昨日―――!!」

 きっとまずいこと言ったり、したりしましたよね?と彼は情けない顔をして言った。
その通りなのだが、はいそうですよ、とは言えずに視線を彷徨わす。
 僕が言葉を濁すものだから、それがまたショックだったようで、彼の顔はどんどん青ざめていく。

「す、みません……!お、俺、とんでもないこと、させたような……!」
「どうして、そう思うんですか?」
「だ、だって腰が、痛くて……その、立てない……」

 恥ずかしそうにそう言った彼は俯いてしまって、それ以降言葉を発さなくなってしまう。
そんなに恥ずかしがらなくたって良いのに。

「本当にすみません、先生、男なのに……」

 俺が可哀想だからって同情してくださったんでしょう?と眉を下げて笑った彼は、少し落ち着いたらすぐに帰りますから、と言ってどうにか布団の中から這いずりだそうとした。
 そんなことしなくてもここにいればいいのに。

「良いですよ、ここにいて下さい」
「でも、その……俺、気まずくていられない……」

 泣き笑いでもしそうな顔をした彼は、きょろきょろしながら何かを探している。

「あの、俺のワイシャツ……」
「あ、くしゃくしゃになったので洗濯しました」
「――――な、……!」

 それじゃあ帰れないじゃないかとばかりに顔を真っ青にした彼は、どうしようかとおどおどしている。
そんなに帰りたいのだろうか、そんなに僕と一緒にいるには嫌だろうか。
 彼の気持ちは分かるけれど、酔っていたとはいえ誘ってきたのは彼だ。
僕はベッドのところまで歩いていくと、そこに腰掛けて彼の顔を覗き見る。

「ねぇ、そんなに邪険にしないでくださいよ……あなた、僕が好きなんでしょう?」
「――――な、そんなことまで、昨日の俺、言ってました……?」
「ええ、仰っていましたよ?可愛い顔して言ってました」
「そんな、すみません……!」
 
さっきまでは真っ青だった顔を今度は真っ赤にさせ
た彼は、どうしたら良いんだろうなどと独り言を漏らしながら恥ずかしがっている。
だからそんなに恥ずかしがらなくても……

「昨夜のこと、まったく覚えていないんですか?」
「お、覚えてないです……!」
「へぇ……」

 彼の顔に自分の顔を急接近させながら、そう言えば顔が近いです、と怒られる。
だって可愛い顔だから近くで見たくなったんですよ。






続く


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