生足ボーイ



夏は暑い、暑いから長ズボンなんて穿いてられない。
いつも穿いてるジーンズもジャージも、一度穿いてみて暑くて脱いで、そのままタンスの前に放置している。
だからといって下着一枚でいれば妹には嫌がられ、母親には小言を言われるのだ。
あまり好きではないのだがハーフパンツを穿いておこうかとタンスを漁ってみたのだが、見あたらない。
母親に聞いてみれば洗濯しているとのこと。
まじか……
俺は代わりになるものがないかとタンスをひっくり返す。
すると、あるものが出てきた。

「これは……」

ずいぶん前、母親が買ってきた丈がかなり短いズボン。
ホットパンツ、とまではいかないが、それに近いズボンだ。
これを穿くべきか、と少し悩んだが特に出かける用事もないし、と足を通す。

「うわぁ……これは」

ひどい、と俺は独り言を漏らしていた。
なんか、最近の女の子がしている格好みたいだ。
まあ部屋に閉じこもっている予定だし、誰かに見られることもないだろうから構わないと、そのときは思っていたんだ。
まさか、妹が古泉を部屋に連れ込むだなんて、俺は思いもしなかったのだから。






「こんにちは」

そう言って古泉が入ってきたのは、俺が布団の上でごろごろしながら雑誌を読んでいるときだった。
まさか、まさかこいつが入ってくるだなんて思っていなかった俺は後ろを振り向いたまま固まった。
え、なんでおまえがここにいる。

「古泉君、遊びに来てくれたんだよー」
「ええ、あなたに返したいものがあったので……」

手に持っているのは数学の教科書。
先週古泉が珍しく忘れ物をしたからと俺に借りにきたのだ。
そんなもの来週で良いのに律儀な古泉はわざわざ来てくれたのだろう。
だがしかし、なぜ今日なんだ。
なぜ今日の今の時間なんだ……!

「お、おぅ……」

あまりにも気まずくて、だからと言って下半身を覆い隠すのもおかしいし、とりあえず緩慢な動きで起きあがる。
立ち上がって古泉から教科書を返してもらって。
これであっさり帰ってくれる古泉……ではない。

「ちょっとお話、良いですか?」
「えー古泉君、遊ぼうよぅ」
「ごめんなさい、お兄さんとちょっと大事なお話があるんです」
「ふーん……まあ仕方がないや、ミヨキチと遊んでくるね!古泉君はまた遊ぼ!」
「はい、お気をつけて」

無駄に優しく微笑んだ古泉は手を振って我が妹を見送って、それから俺に向き直る。
さっきまでのほほえみはどこへやら、俺に向けられるおまえの視線はやらしい気がするのだが…

「だってそんなズボン穿いてるあなたが悪いんですよ」
「……だって、ズボンがなくて……」
「脱ぎ散らかしてある、あれは何ですか」
「暑いから、長いのは嫌だったんだ」

なるほどね、と笑った古泉はするする、と手を伸ばして俺の太股を撫で上げてきた。
びっくりした俺は後ずさったのだが、足がベッドに引っかかってそのまますっ転んでしまう。
まずい、と思ったときには古泉が覆いさぶさってきて。

「……何のつもりだ」
「こんなにセクシーな格好を見せられたら、ねぇ?」

ねぇ、じゃない、ねぇ、じゃ。
どんどんと手が這い上がってきて、ズボンの中に入り込んでくる。

「いい加減にしろ!」

足を振り上げてがんっ!と腰の辺りを蹴り上げてやった。

「うぐっ!」
「家では絶対!だめ!」
「一度で良いからあなたの部屋であなたを抱きたいです……」

捨て犬みたいな目をしても無駄だ、無駄!

「家族がいるときはだめだって、言ってるだろ……」

俯いてそう呟けば、古泉の手がぴた、と止まる。
どうしたのかと見上げればそこには頬を赤らめた古泉がいて。
眉をひそめれば、片手で顔を覆った古泉がはぁ、とため息を吐いた。

「今のは、反則ですよ……手を出せないじゃないですか」

俺にとっては喜ばしいことこの上ないのだが。

「今日は我慢しておきます、けど……今度ご家族がいらっしゃらないとき、ここでエッチしたいです」
「い、嫌だぞ…!」
「あなたの匂いがするこの部屋で、あなたを抱きたい……」

ね、約束ですよ?

余裕がない癖して微笑んだ古泉は、一方的にこんな約束を取り付けやがった。
俺はこんな場所で、エッチは、したくないんだからな!
き、と睨んでやれば、古泉は俺の手を取って、今日は僕の部屋に来て下さいね、と言ったのだった。





その手をどうしたかって?

振り払えるわけ、ないだろ!






おわり


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