愛のシルシ8
「それでさ、まぁ、なんだ……やっぱり少し嫌な気持ちになった訳で」
「もっと早くこうやって聞けば良かったですね……」
「もう気にしてないからさ、だから古泉も気にするな」
心配かけてすまん、と言えば柔らかい感覚が耳元を掠めて、俺は身を竦めていた。
それが古泉の唇の感触だと気づくにはそう時間はかからなかった。
くすぐったいような感触にやめろよ、と言えば嫌です、と返されてしまう。
こうなったら最後まで聞く気がない古泉だから、好き放題してきて。
おい、どういう展開だこれは。
「傷ついたあなたを慰めて差し上げようかと」
「いらん配慮だ、バカ」
「とか言いながら嬉しそうにされてますが?」
う、と声が詰まる。
なぜ分かった。
「あなた、何か良いことがあったらすぐ耳が赤くなるんですよ」
「わ、わ、悪かったな!」
「分かりやすくて僕は助かりますよ」
ご自分の気持ちをあまり口に出して下さらないから、と呟いた古泉はこっち向いて下さい、と言った。
もう良いだろ、寝ようぜと言ったのだが、そんなの嫌ですと返される。
さっきから嫌々と我が儘な奴だな、おまえは。
「そんなの気にしないで良いくらい愛して差し上げようかと思ったのに」
「そ、そんなのいらんぞ!」
「嘘、嬉しい癖して」
ね、しましょうよと古泉の手が後ろから伸びててくる。
後ろからシャツのボタンを外されそうになって、身を捩ってどうにか阻止した。
確かにこうやって愛されるのは嬉しいけれど、気分にならない。
(古泉に隠し事してるからだ───)
それしか考えられないだろ、じゃないとこんな変な気分にはならない。
いつもだったら流されてしまうかもしれないのに、どうもダメで。
やる気はないとばかりに身を固くしていれば、古泉がため息を漏らした。
「そんなに拒まなくても良いじゃないですか」
「……ちょっと落ち込んでるんだよ、そっとしといてくれ」
今はどうも出来ない、適当に流して気持ちを整理できるまで誤魔化せないだろうか。
しかし、古泉が色魔だということを俺はすっかり忘れていた。
一度やりたいと言い出すと、どうやってでも流そうとするんだな、これが。
俺の後ろにぴったり寄り添って横たわった古泉はぎゅう、と後ろから俺を抱きしめた。
古泉の体が密着して心臓が跳ね上がる。
やばい、こいつの体温に触れると俺の熱も上がってきてしまう。
しかもこいつ、もうガチガチじゃねぇか───!
「し、尻に擦り付けるな……!」
「その気にさせてあげます」
聞く気がない古泉は腕をパジャマの上着の中に突っ込んできて、胸の飾りに触れてくる。
続く
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