愛のシルシ7




いらん虫はもう付けて帰るなよ、と念じつつイケメンな旦那に飯を食わせた俺は食器を片づけて風呂にはいる。
明日が早い古泉はもう寝室に入ってしまっただろうか。
いつもなら早めに上がって少しでも話をしたいと急ぐ風呂も、今日は異様にゆっくりだ。
二人になれば何か聞かれるだろうとでも思ってるんだろうな、俺は。
ぶくぶく、と口元まで沈んだ俺は内心深い溜息をつく。
本当にどうすればいいものかね。
時間だけはたっぷりかけて風呂に入った俺は、のぼせたまま寝室に向かった。
きっと疲れて眠っているに違いない、そう思っていたのだが古泉はベッドの上で本を読んで待っていて。
やばい、こんなことになろうとは……

「ずいぶんと長風呂でしたね、珍しい」
「つ、疲れてたからゆっくり浸かりたかったんだよ」

苦し紛れの言い訳をした俺は気にしない振りをしてベッドにダイブする。
さっさと寝たいんだ、何も話しかけるなという雰囲気を作っておけば触れて来ないだろうと思って、古泉に背を向けて横たわった。

「………あの、」
「何だよ、俺は疲れてるんだ」

だから構うなよとオブラートに包んだ表現をしたつもりなのだが、こういうときに限って古泉は空気を読まない。

「話が、あるのですが」

ほら、きた。
ドクン、と心臓が跳ね上がって異常な拍数を刻み出す。
今俺は何も語りたくないんだ、引かれるかもしれないって思ってるからな。

「なんだよ、手短に話せ」
「あなたの様子がここ数日おかしいので心配なのですが」
「何でもないって言ったろ?そんなに俺の言葉が信じられんか」

いいえそう言う訳ではないんです、と首を振った古泉は読んでいた文庫本をそっと脇に置いた。
そして、背を向ける俺の頭に手を置いて優しく撫でてくれる。
時々耳を掠めるように撫でられ、気持ちよさにぼんやりとしていれば、そんなもやのかかった向こう側から古泉の声が届いて。

「何か気になることがあるなら言って下さい……じゃないと僕、また変な勘違いをしそうだ」
「そりゃあ迷惑だなぁ」

まるで人事のように呟いた俺はうっすらと目を開けて、話せる範囲までは話しておこうか、と思う。
やっぱり黙っておくわけにはいかないし、そんなことでまた夫婦の間に亀裂が生じるのは不本意だ。
しばらく考えた俺は何を話せばいいのかよーく吟味した後。

「あの、な……おまえが気にすると思って言いたくなかったんだが……例の上司にさ、会ったんだ」
「───え、」
「ほら、デパ地下ではぐれた時にさ、たまたまはち合わせちまって」

何か言われませんでしたか、と問われて口ごもる。
これ以上は、どうしようか……

「まだ、古泉に付きまとってるのかって言われちまった」
「そんな酷いことを────ッ!」

古泉の言葉に怒気がこもり、俺の頭を撫でていた手が止まった。







続く


あきゅろす。
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