愛のシルシ6




「────、さん…、…!」

名前を呼ばれて、どろりと重い意識が無理矢理引きずりあげられる。
体はだるいし頭は痛いしで、正直起きたくない。
でも何度も何度も呼ばれたら無理矢理引きずり出されて、俺はうっすらと瞳をあけていた。
まず目に入ったのは白い天井と暖かい色の電球、カーテン。
それから、古泉の顔だった。
あれ、古泉が家にいるってことは今何時だ。
晩飯の支度もしてないぞ───っ!
がばりと起きあがって飯まだだ、すまん!と謝ったのだが、古泉はそんなことはどうでも良いんですと言って。

「どうしたんですか、こんなに目が真っ赤……」
「え?」
「泣いて、いたんですか?」

びっくりした、自分でもそんなことには気がつかなかったし、泣いていた理由もよく分からない。
いや、思い当たる節はあるのだが、とりあえずこの頭痛と気持ち悪さは泣いていたせいか。

「すまん、俺もよく分からなくて……」
「何か、気になることがありましたか……?」

ないと言えば嘘になるから、分からないとだけ答える。
なんだよ、どんだけ気にしてるんだ。
俺がしっかりしないと古泉を困らせてしまうし、こんなこと気にしていると知られたら最悪嫌われてしまうかもしれない。

「おまえは気にしなくて良いんだよ、ちょっと疲れてるだけだ」

目が乾いてたのかもな、目薬でも差しとくしもし収まらなかったら眼科にでも行くよと誤魔化して、俺はソファーから起きあがった。
飯、作らないとな。
おまえ腹減っただろ?
いつも頑張って仕事してんだから旨いもの作ってやらなきゃ、明日のやる気も沸かんだろう。

「有り合わせになるけど、我慢な?」

今日は買い物行ってないから、と言えば古泉は少し不満そうな顔をした。
有り合わせが不満な訳じゃないだろう、俺が黙っているからだ。
いつか突っ込まれるだろうから、それまでに落ち着かなければ。

「そんな顔、するなって」

な?と笑いながらエプロンをつけた俺は、台所に向かった。
冷蔵庫を開ければ昨日の残りの食材がいくつか出てきて、それを使って夕飯を作る。
これだけあればいいだろう、と食卓に並べればそれなりに形になっていた。
古泉の腹も膨れるだろうし、舌も満足してくれたら言うことはないのだが。

「さ、飯食って早く寝ようぜ」
「……ええ」

支度をしている間に風呂をすませた古泉が、ラフな格好で出てきた。
どんな格好をしていても様になるんだから、ほんと男でも羨ましいルックスだよ。
ただ、恋人というか嫁というか、とにかく恋人の一番大切な人の位置についてしまったら嬉しい反面不安も多い。
やっぱりこういう男は目立つから、いらない虫が付きやすいんだよ。
まあ会社ではもう、絶対にないと思うがな。






続く


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