愛のシルシ5



「どうしたんですか、眠れなかった?」
「いや、大丈夫」

翌朝。
なんとか眠れたものの、眠りが浅かったせいか冴えない顔をした俺の顔をのぞき込んだ古泉が心配そうに尋ねてきた。
今晩くらいだよ、こんなことになるのは。
きっとそのうち気にならなくなって夜だって眠れるだろうし、大丈夫だ。
なんか眠れなかったけど昼寝でもするさ、と返せば是非そうして下さいと返される。
古泉が仕事に行っている間、洗濯掃除をしてからソファーで惰眠を貪ろう。

「体だけは大事にして下さいね」
「当たり前だ、健康管理が第一だろ」

そんなの分かってる、と返せば古泉はにこりと笑ってそれなら安心です、と言った。
古泉が安心しているのなら大丈夫、あとは俺の気持ちの問題だから気にしないようにすればすむだろう。
朝食を済ませた古泉を玄関まで見送り、いつものように行ってらっしゃいのキスをして。
幸せそうな顔をして行ってきます、と古泉は出て行った。
よし、とりあえず掃除しよう。
昨日の片づけもおざなりにしてるんだから、ちょっと大変かもしれないがな。

それから俺は散らかった台所や食卓机を片づけて、洗濯物をした。
古泉のワイシャツは古泉の匂いしかしなくて、時々抱きしめてしまう。
今日も例に漏れず古泉のワイシャツを抱きしめた俺は、すん、と匂いを嗅いでいた。
優しい匂いがして、胸がきゅんとなる。
古泉が好きだと思うと同時に、またいやなことが思い出された。

「……どうせ、男だし」

俺には無理だよ、と半ば自嘲的につぶやいた俺は気にしない振りをして洗濯機の中にワイシャツを放り込んだ。
しかし、頭の中では余計なことをぐるぐると考えてしまっていて、消そうにも消えてくれない。
あんなにも古泉が好きなのに、認めてもらえないことに涙が出そうになった。

元から危険な道だと言うのは覚悟していた。
男同士なんてカップルはほとんどいなかったし、むしろ異色で白い目で見られた。
それでも籍を入れたのはお互い愛し合っていると言うことを理解してもらえたからだ。
ただ、俺たちをよく知っている周りの親しい人からはそうであっただけで、初対面の人とか、あまり親しくない人からは引かれたと思う。
そんなつき合いが長くないんだから俺たちのことをいきなり理解しろだなんて言わない。
ただ偏見を持たずに見守って欲しいんだ。
ただ、それだけなのに。

「赤ちゃん、欲しいな……」

無意識のうちにおなかをさすりながら呟いていた自分にびっくりした。
俺は一体何を言っているんだ、妊娠なんて無理だって分かってるし、そもそもはじめは気にしないようにしようって───!

「だめだ、疲れてるんだ」

寝よう、と思った。
ふらふらとソファーに近づいてぼすん、と倒れ込む。
古泉が買ってきた柔らかいソファーがぎしりと悲鳴を上げたが構うことなく、俺は瞼を閉じていた。






続く


あきゅろす。
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