愛のシルシ4



せっかく話題を変えてしまおうとしたのに、さすがと言うべきか、古泉には通用しなかった。
代わりに心配な目でのぞき込まれて、俺はごく、と唾液を飲み込む。
言わなかったら逃してもらえないだろうな、とは思ったし、以前何かがあったら必ず話すようにと約束した。
それを破るように黙り込んでいるのもいけないような気がするし、だからといってあの女上司に会ってしまっただなんて言いたくない。
しばらく考えた俺は会いたくない人にあったんだ、と間違ってはいない答えを返した。

「会いたくない人とは誰ですか」
「ご想像にお任せするよ」

俺がこれ以上話す気がないような素振りを見せれば、古泉は納得いっていないように眉を寄せている。
まあ俺だったとしても、あんな誤魔化され方はしたくないだろうな。
ただ、やっぱりあの人のことは口に出して言いたくない。

「───ごめん、察してくれ」
「……分かりました、あなたがそこまで言うのなら」

その代わり、変わったことがあったらすぐに相談して下さいねと古泉は話してくれ、俺は少しだけ表情を明るくしていた。
今は少し嫌な気分だが、そのうち落ち着くだろう。
今日は一年に一回の誕生日だ、そんな日にわざわざ休みを取ってくれているんだから楽しまないと。
俺はいつもの笑顔を取り戻そうとどうにか自然な笑顔を作り、早く家に帰ろうぜと古泉を急かした。





楽しいパーティーはあっと言う間で、酒に酔った俺たちは台所の片づけもそこそこにベッドになだれ込んでいた。
古泉はいつも以上に俺に優しく触れてくれ、最高に感じさせてくれる。
誕生日が特別な日だから、と生まれてきてくれてありがとうだなんて恥ずかしい台詞も囁いてくれた。
その時間は甘くて溶けそうで、俺にとって最高のプレゼントだったんだ。

そこまでは良かった。
結局二人さんざん愛し合って疲れて眠りに落ちたのだが、そのとき俺は最低な夢を見た。
そりゃあもう、酷いものだったさ。

「古泉君を束縛して、何様のつもり?」
「愛の形を残せない体の癖して」
「男なのに彼を縛り付けて、古泉君から本当の幸せを一生奪うのね」

頭ががんがんして飛び起きる、時計は深夜二時を指していた。
隣では何も知らない古泉が静かに寝息を立てていて、明日は仕事なんだから起こしたらいけないなとゆっくりベッドに体を預ける。
このままじゃあ以前古泉とトラブルを起こしたときと同じじゃないか。
でも、こんなこと言えない。
古泉を困らせてしまうだけなのは目に見えている。

(男なんだ、子どもなんて望めない)

それこそハルヒが何かしてくれたら有り得る話だろうが、そう言う訳にもいかない。
悩んだ俺はとりあえず自分の気持ちが落ち着くのを待つことにした。
大丈夫、古泉はそんなこと関係なしに俺を愛してくれると誓ってくれたんだ。
気にしていればそれは即ち、俺が古泉の言葉を信じてやれていないと言うこと。
そんなわけ、ないから。
今日はいきなり出くわして言われたから動揺しているだけで、いずれ気にならなくなるだろう。

俺はそう思って、無理矢理眠りに就こうとしたんだ────







続く


あきゅろす。
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