愛のシルシ2




そう呟いた俺はポケットに手を突っ込んで携帯電話を探す。
指先に触れた冷たい感覚に一瞬背筋を凍らせながらも漸く取り出したそれのディスプレイに、俺はげぇ、と小さく声を上げた。

「圏外って、まじか…」

運悪くここは圏外らしい、ということは古泉が俺に連絡を寄越そうとしても通じない可能性があるっていうことで、もしかしたら古泉の携帯電話も圏外になってしまっている可能性だってある。
俺は仕方がない、とりあえず電波の通じる場所に出てしまおうと思い至って地上に上がろうとしていた。
言いそびれていたがここは地下の食品街なのだ、電波が悪いのは仕方がないことだろう。
再び携帯電話をポケットに戻した俺はエスカレーターを探してうろうろと歩き始めた、どこにあったかな、エスカレーター…

「あら、あなた古泉君の…」

忙しなく視線を動かしていれば、いきなり後ろから声をかけられる。
聞き覚えのある嫌な声に俺は肩をびくり、と跳ね上がらせていた。
この声はどこかで…いや、正確に言うと半年前に古泉の会社で聞いたことがあるし、言い合ったような気がする、のだが…
振り返りたくはないが、それでは逃げているようだと思った俺は恐る恐る後ろを振り返り、自分より背の低いその女性の姿を確認させられていた。

「ほら、やっぱり古泉君のお嫁さんじゃない」
「ご無沙汰、しています……」
「何がご無沙汰しています、よ。人を会社から追い出しておいて」

ぎろり、と睨みつけられて俺は無意識に手のひらを握り締めていたらしく、柔らかい部分がじんじんと痺れるような痛みを生み出していた。
それ以上に心臓は痛んで異常なくらい早い心拍数をたたき出している、汗だって尋常じゃないぞ、背筋が冷たい汗でひんやりしてしまっているぞ。

「あなた、まだ古泉君と一緒にいるの?」
「当たり前、だろ…」
「早く古泉君もあなたに飽きてくれないかしらね、そんな新しい命も生み出せないような体」

それだけ言うと彼女はにやりと笑って俺に背中を向けると歩き出してしまって、俺は何か言い返してやろうとするのだが人の波に飲まれて見えなくなってしまった彼女には何も言えなかった。
呆然としてその場に突っ立っていれば後ろから歩いてきた親父に「邪魔くせぇな」と文句を言われながら小突かれる。
しかし、そんなものにいちいち反応している余裕はない。
俺の目の前は真っ暗になっていて、ずっと気にしていたけれど見ない振りをしていた部分を思い切り抉られたような気持ちになっていた。
いや、実際思い切り抉られたわけなのだが。






続く


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