愛のシルシ1



古泉との幸せな生活を手に入れてからちょうど半年くらいになる。
半年前はといえば古泉が浮気しているんじゃないかと怯えながら生活していたのだが、俺の恥と努力と、それから友人・谷口の協力のおかげで平穏な生活を手に入れていた。
俺の不安の原因となった古泉の会社の女上司だが、あの後騒ぎを聞きつけた社長の手によって他支店へ異動になったらしい。
それを聞いて俺は安心だってしたし、これからはきっともう大丈夫だろうとよく分からない確信を持っていた。
しかし、もう大丈夫だなんて思えたのはほんの一ヶ月くらいでそれから後、俺はあの時女上司に言い放たれた一言が胸につっかえて取れなくて、苦しい思いをしていた。
どんなことを言われたかだなんて思い出しただけで気持ちが悪くなって吐きそうになってしまうくらい、俺にはどうしようも出来ない一言だったのだ。
それをどうにか忘れようと毎日古泉に甘えて不審がられたり、自分でも恥ずかしくて仕方がないことを古泉に要求したりして気持ちを紛らわせていたのだが、それもそろそろ限界を迎えそうである。
一体俺はどうしたらいいんだろうね、誰かご教授願えないだろうか。

「はぁ…」

小さくため息をついた俺に古泉は気がつかない。
それもそのはず、ここはたくさんの人がごった返す休日のスーパーなのだから、いくら気がつきやすい古泉にでも気付くことはできなかったのだ。
それをいいことに、俺は前を歩く古泉の一歩後ろを控えめについて行きながら表情を暗くしていた。
休日のスーパーには色々な人が訪れているのだが、俺のため息を原因となっているのは赤ん坊を抱えて幸せそうに歩くカップルに他ならない。

(俺も、女だったらなぁ…)

ふとそんな考えが頭を過ぎるがそういう問題ではない、と頭を振って邪念を吹き飛ばすと古泉とはぐれないように一生懸命ついていく。
古泉はちゃんと俺のことを気遣って歩いてくれてはいるのだが、それでもいつはぐれてしまうか分からないだろう?
それにこの人の群れだ、どんなに気をつけていてもいきなり変わる人の流れに飲まれて動けなくなる事だってあるのだ、ほら、今の俺みたいに…ってあれ?

「お、おい……古泉!」

横から割り込んできた女子高生の集団に遮られて古泉の背中がどんどん遠くなる。
こういうときに限って古泉は後ろを振り返ってくれなくて、俺は頭の中で古泉の馬鹿野郎!とか俺のことが好きならもっと気をつけて歩けよ!とか好き放題罵ってみたのだが、その罵りが古泉に伝わることなく、あっという間にはぐれてしまった。
きょろきょろと辺りを見渡して探してはみるのだが、古泉の背中は見当たらない。

「くっそ、めんどくせぇ……」






続く


あきゅろす。
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