砂漠の花2


俺が体を強張らせて目を見開いたのがまた、面白かったのだろう。
古泉はくすくすと笑って、俺がいるベッドの前までくると、ぎしっとそこに乗り上げた。
やばい、と思って逃げ出そうとすれば、足首を掴まれてそれは叶わない。
本格的に危機感を感じた俺がぐっと唇を噛むと、そいつははぁ、とため息をついた。

「聞いてください、僕、消えちゃったんです」
「…は?」
「だから、世界ごと存在を消されちゃったんです…あなたの手によって、ね?」

その声がどこか遠くで聞こえているような気がしてくる。
コイツは消えた?
俺の、手によって?

「だってエンターキーを押したじゃないですか」
「そう、だけど…」
「その瞬間、あなたは僕がいた世界を消しちゃったんですよ?僕だってそのまま消えていなくなったんです。僕がここにいるのはあなたに対する怒りから、といっても良いでしょう、分かりやすく言うとおばけですね」
「分かりやすいどころか怖いわ!」

俺がそういうとまあそうですね、だなんて笑っていやがる。
そんな顔を見つめていればなんだか切なくなってきて、俺は目を伏せた。
確かに俺はこいつたちの世界を消して、こっちの世界に戻ってきたのだ。
それはすなわち、目の前にいる向こうの世界の古泉の存在を消したということであって。
向こうの古泉にもやりたいこととか、夢とか、そんなもんがあったのだろうとは思う。
機関も何もなくて、何にも縛られない自由な生活。
普通に学校に通って、友達を作って、恋だってして。
そんな生活をしていた古泉を、俺は消した。

「すまん…でも、俺もこっちの世界を守りたかった…いつもの生活を、取り戻したかった」
「でもそれはあなたの勝手で、僕の気持ちじゃない」

確かにそうだ、俺の思いだってあるけれど、この古泉の思いをあるんだ。
もちろんそれは分かっていた…でも、本来あるべき世界はこっちの世界。
コイツにそれを分かってもらえるかといえば、それはない気がするが…
俺は少し考えてから、頭を下げた。

「お前の言いたいことはよく分かる…怒るのも、化けて出てきたくなるのも分かる」
「おや、やけに素直ですね?」
「五月蝿い…とにかくこの空間から俺を出してくれ、パラレルワールドってことはどうせハルヒが作り出した変な空間のうちの一つなんだろう?」
「何のことだか分かりかねますが…いつの間にか僕はここにいました、一度死んだはずなのにね?」

ふふ、と笑った古泉は俺の足を握る力をさらに強める。
そのまま握り続けられれば確実に青あざが出来てしまうだろうというほどの強さだった。
さすがに痛みが走って顔を歪めれば、ぐいっと足を引き寄せられる。
バランスを崩した俺がベッドの上に沈んでいれば、あろうことか古泉は俺の上に乗り上げてきた。
なんてこった、何をする気なんだ!

「何って…ナニに決まっているでしょう?僕はあなたが憎いんです、だったら精一杯の屈辱をあなたに味わっていただくのが一番いいかと思いまして」

爽やかに笑って言うせりふではないと思うぞ、だなんて突っ込みを入れれるくらい俺に余裕があればよかったのだが、生憎俺にはそんな余裕はなかった。
こんな体勢で言われる精一杯の屈辱、といったらあれしかないだろう?
俺はこっちの世界にいる古泉の相手をするだけで手一杯なんだ。
それをコイツにまで無理強いされるのは勘弁願いたい。
俺が必死に抵抗しようと身を捩じらせていれば、古泉は面倒くさそうに俺を見つめるといきなり手を振り上げた。
あ、と思ったときには俺の頬は熱をもってジンジンと疼き始める。
びっくりして瞬きさえも出来ない。

「あ…」
「いい加減にしてください。僕、怒っているって言ったでしょう?」







続く


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