砂漠の花


なにがどうなったのか、よく分からない。
ただ、目が覚めたときに無性に泣きたくなった。


砂漠の花


こちらの世界に帰ってきて、夢をよく見る。
その夢に出てくる彼はいつも怒って、俺を詰って、泣いた。
何をそんなに苛立っているのか聞きたかったが、その相手が誰なのかよく分からなくて俺は困惑するばかり。
そのうち相手は諦めたかのか、それとも疲れたのか。
とにかくいくら言っても俺が理解していないことにがっくりして背を向けてしまうのだ。
違うんだ、俺はお前が誰だか分からないんだと叫んでも首を左右に振るばかりで全く取り合ってもらえない。
今日もうなされる様に真夜中に目が覚めた俺はハァと小さくため息をついた。

「誰なんだよ、アイツ…」

見覚えがあるシルエットだった気がするが、俺の知っているその人とはどこか違うのだ。
その、俺が知っている人というのは俺が所属している部活…とはいえないが、とにかく妙な団の副団長を勤めている男で。
でも、古泉とはどこか違う。
古泉であって、古泉ではない誰か、という気がしてならない。
はあ、ともう一度ため息をついた俺はトイレに行こうと思って布団を抜け出そうとした。
のそりと身を起こせば、ドアの前に誰かが立っていて体が竦みあがった。
気配が全くしなくて気がつかなかったのだ。
あまりにもびっくりしてしまって大きな声も出せない。
誰なんだ、何をしに来たんだ。
とにかく逃げようと思って布団の上で後ずさる。
何処から逃げよう、窓から飛び降りるか?
そんなことをぐるぐると考えていれば、そこに立っていた黒ずくめの男はにっと笑った。
月明かりに照らされていた口元だけがやけにはっきり俺の瞳に写る。
それには見覚えがあった、あの…夢に出てくる男だ。

「だ、れなんだよ…」

漸く搾り出したその声にその男は顔を上げる。
その顔が先ほどまで考えていた男のものと一緒で、俺は息を飲んでいた。
顔は一緒でも、雰囲気が、目つきが、笑い方がまったく違う。
それでも、こいつは俺が良く知っている奴だ。

「古泉…?」
「おや、僕が分かるんですか?」

古泉はにっこりと笑うと首を傾げてみせる。
いつも古泉がするような仕草でも、俺は全く安心できない。
古泉であって、古泉じゃない。
こいつは古泉の皮をかぶった、ニセモノだ。

「お前、古泉じゃないだろ…何者だ」
「僕は正真正銘、古泉一樹ですよ?ただ、この世界の住人ではないのですが」
「…おまえ」

俺は目を細めて古泉を見つめた。
そこで唐突に理解する、いや、思い出す。
何でこんな所にいるんだ、こいつ、向こうの世界にいた古泉じゃないか…!
着ている制服はいつものブレザーではなく、学ラン姿。
そうだ、夢に出てきていたのも古泉に似ていて違う人物だった。
何で早く気がつかなかったのだろう。

「何でこんな所にいるんだよ…!」
「ここも、一種のパラレルワールドですよ」

古泉はそう、とんでもないことを言ってのけると俺に向かって一歩踏み出した。
先ほどまでは動く気もなくドアに背中を預けていたというのに、いきなり動くな!
身構えることが出来んだろう!






続く



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