fragment of rain


聞くなという。
言うなともいう。
そんな理不尽なあなたは大嫌い。



エドワードは小さい窓から空を見上げながら本日何度目かも分からぬため息をついた。
ロイにこの個室に閉じ込められて何日たっただろうか。
かろうじてこの窓があるおかげで昼夜の区別はできるものの、日にち感覚はどこかに行ってしまった。

「さっさと帰ってきやがれ、無能」

きっと本人がいたらただで済まぬようなせりふを吐き捨て、エドワードはベッドに顔を埋める。
今日はあいにくの大雨であながち嘘でもないのだがと内心思いつつ。

「早く帰らねぇと襲撃されるぞ馬鹿、むしろされちまえ」
「まったく酷いいいようだな」

いきなり暗闇から声がして、エドワードはびくりと体を跳ねさせた。
恐る恐る振り向くと先ほどまで悪態をつかれていた本人で。
緩やかなカーブが描かれた口元が薄暗い室内に浮かび上がって不気味だ。

「…よう、遅かったな」
「忙しくてね」
「軍の対応が悪いからじゃねーの」
「酷い言い様だね…」

はぁ、とため息をついてコートを肩からゆっくりとおろしている男を見てエドワードは怒鳴った。

「そんなことどうでも良いんだよ、早くここから出しやがれ!」
「それは嫌だ」
「じゃあ何で俺はこんな目にあってんだっ!」
「それは秘密だ」

にっこり笑ってそう返す。
馬鹿にされているかのような二人の温度差。
気に食わない。
理由くらいあれば納得が出来る。
内容にもよるのだが。

「とにかく、さっさとここから出せ…っ!?」

そういいながらエドワードは目を見張った。
ロイが酷くつらそうな顔をしていたからだ。

「…何、だよ」

そう聞いても何も返ってこない。
流れる沈黙と気まずい空気が流れる。

「何とか言えよ…」
「うるさい」

それだけ言ってロイはエドワードから目を背けるとコートと軍服の上着、そして巻きスカートをクローゼットの中にしまいにかかった。
その横顔を見つめながらも言う一度。

「なにかあったんなら言えよ」

しかし返事が返ってくることはない。
何度もしつこいくらいに聞いてみる。
返ってきた言葉は一言。

「犯すぞ」

その台詞にひるむと彼は再びにっこりと笑って。

「何も聞くな、もう少しだけだから」

それだけ言うとロイは部屋から出て行ってしまった。
閉まったドアを見つめながらエドワードはため息を漏らす。

それは薄暗い部屋の中に溶けて消えてしまった。










それからまた数日たった。
今日も相変わらず雨で。
いつもより幾分か早く帰宅したロイに声をかける気にもならず、エドワードは文献を読んでいた。
少しだけその文献の文字から目を外すと文献の表紙を眺める。
ここに閉じ込められている間、ロイはエドワードが読みたいといっている文献だけは十分に与えてくれた。
それに部屋からはロイの錬金術のせいで出ることはできないが部屋の中は自由に移動できる。
ちらりとロイを見ると今日はいつもより疲れているように見えた。

なにかあったのだろうか…?

そんな考えが頭をよぎる。
ロイはそんなエドワードの視線に気づくと弱弱しく笑った。
胸がつきんと痛む。

エドワードは文献を閉じ、ロイに歩み寄った。
それを無言で見つめながらロイは近くにあったいすに腰掛ける。
ロイの前にたったエドワードは静かに口を開いた。

「別にさ、何があったとかきかねぇよ。だけどそんな顔してるあんたなんか見たくない」
「あぁ」

目を伏せ、ロイはまた笑った。

もう限界だった。

勢いよくエドワードはロイに抱きついた。
そして上手くはないが必死で唇を合わせて。
それにロイも答える。
しばらく、獣のように唇を交えた後。

「あんたは…ッ、何でそんなに寂しそうなんだよ、辛そうなんだよ!自分の弱みを見せるのは誰だって怖いってわかるけど、言えよ!それとも俺は信用できない?」

一気にそう叫ぶエドワードの声はどんどんと小さくなり、最後のほうは僅かに震えた。
その体を優しく抱きよせ、ロイは一言「すまない」とだけつぶやく。

「俺じゃダメ…?」
「違うよ、ただ帰ってきたときに君にいてほしかったんだ」
「…?」
「この時期は寂しくて苦しくて仕方がなくなるんだよ」

ロイはその部屋に唯一ある小さな窓から外をのぞくと目を細めた。
エドワードもその視線を追うように一緒になって雨が降り続ける外を眺める。

「一人でいるのがとても不安だ、帰る場所に温もりがないとさらにね」
「あんた…」

そんな弱い部分もあったんだな?










「ん、ふぁ…」
「大丈夫かね?辛くないか?」
「ん…ダイジョーブ」

久しぶりの性行為で慣れない体に楔を埋めるとエドワードは僅かに眉をひそめた。
しかし今はこの男と繋がっていたくてエドワードは必死でそれを受け入れる。
すべてが埋まると二人そろって深く息をついた。
それが可笑しくて笑いあって。

「動いてもいいかい?」
「優しくしねーとただじゃおかねぇぞ」
「承知の上だ」

ズッとロイのペニスがエドワードの熱いナカを深く抉る。
それに大きく喘ぐとロイはさらにエドワードを愛そうと動きを激しくした。

「アアァ、激し…!!」

ギシギシとベッドのスプリングが鳴く。
その音の大きさと比例するように二人の行為は激しくなっていき。
一際大きくエドワードが仰け反る。
それにあわせてロイはしっかりエドワードを抱き込むと一言だけ。

「愛しているよ」
「オ、レも…アアァ!!」

エドワードの精が二人の腹を汚す。
少し遅れてロイもエドワードの中で果てた。


呼吸が落ち着くと二人は体の汚れを落とそうとバスルームにいた。
暖かなお湯の中でしばらく沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはロイだった。

「もうアルフォンスのところへ戻りなさい」
「ぇ…?」

突然の解放宣言にエドワードは驚いてロイを見た。
そこには先ほどまでの暗さがないロイがいて。

「我ながら単純だが君に告白したことで気持ちがすっきりした」
「本当か…?」
「それに君はあんなに私のことを思って心配してくれたからね」

先ほど衝動的に動いてしまったときのことだろうか。
エドワードは恥ずかしくて湯船の中に沈む。
それをすかさず引き上げてロイはさらに語った。

「私は一人ではないと感じることが出来たよ、もう大丈夫だ」

ありがとう、そう言って額にキスをする。
それをドキドキしながら受け止めるとエドワードはロイに抱きついた。

「え、エド…?」
「俺も…俺も辛くなったら、苦しくなったらあんたを監禁してもいい?」
「あぁ」
「そしたら俺もこうやって安心させてくれる?」
「もちろんだとも」

その背中をしっかり抱きしめるとロイは肯定の返事を返す。

「愛しているよ、エドワード」
「おれも、あ、あ、愛…」

“愛している”

そう言いたかったけれど舌が上手く回らない。
口をパクパクさせているエドワードを見てロイは微笑んだ。

「君から愛していると言ってもらえるには当分時間がかかりそうだな」


しかし先ほどのアプローチだけで我慢しておこうとしよう。
君は寂しい、苦しい私を救ってくれたのだから。





END




FREE配布
※配布終了


すみません。
ロイは梅雨の時期は無能だってことが書きたかったんです。
あ、でもギャグ調ではなくシリアスっぽく…
ギャグ調だったら確実に本文中でエドワードの無能発言があったことでしょう(独り言は除く)
見事に寂しいからという理由からエドを軟禁してしまいました。
エロも少なめで楽しみにしてくださっているお客様には申し訳ないorz
でもみずきは楽しくかけました。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!




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