やるせない性2・1
俺のお気に入りの一樹君は、結局あの後顔を真っ赤にして俺を突き飛ばすと、鞄を両腕に抱えて走り去ってしまった。正直面白くないが、初めてなのだから仕方がないだろう。
 きっと次も我慢できずに来てしまうに違いない。きっと今日よりも傷だらけの体で。
(早く来てくれないかなぁ…)
 今日の彼の表情を思い出しただけでまた背筋がゾクゾクとして、俺は一度果てたはずのペニスをもう一度握り締めていた。
 彼が次に通院してくるのは一週間後。そのときまで俺が我慢できるのかは分からない。でも、我慢しなくては。
 我慢したほうが、きっとずっと気持ちいい。









 予想通り、一週間後の閉院前、彼はやってきた。前よりも少し疲れたような顔をして。きっと今日来るか、やはりやめようかと悩んだ痕跡だろう。
 よくこれたなぁ…と人事のように思いながら、俺は遠くから彼に微笑みかけた。そうすれば非常な複雑な顔をされて、目を逸らされてしまう。
 当たり前といえば当たり前な反応だが、良い気はしない。
(後でしっかり教えてやらなきゃ…)
 診察後の処方は残念ながら今日も俺が担当だ。かわいそうに。でも、俺からすれば好都合。ちょっときつめにお仕置きしてやらねばならない。
 医師から伝えられた薬や、点滴薬を準備した俺は彼がこの部屋に入ってくるのを今か今かと待ち構える。早く俺に食われるために自分から飛び込んで来てくれないかな。
「…失礼します」
 しばらくすると俺の待ち人は控え目に個室に入ってきた。俺は笑顔で彼を迎え入れ、ベッドに横たわるように言い渡す。
「いえ、結構です。このままで」
 どうやら警戒心丸出しできたみたいだ。俺の様子をじっと見つめてきて、危なくないようにきょろきょろしている。なんだか、こういうのも傷つくなぁ。
 俺はそれならそうすればいいというと、彼の右腕を取り、オキシドールの染み込んだ脱脂綿で針を刺す場所を丁寧に拭った。そして取り出した注射針をちくりと刺す
「――っふ!」
「これだけでも気持ちいい癖して」
「なっ…!」
 俺がポツリとそう言うと、彼は目を大きく見開いて顔を真っ赤にした。俺はそんな彼を冷たく見下ろすと、ふんと笑って。
「お前も十分変態じゃないのか?」
 と言ってやった。そのときの彼の傷ついた顔といったら。思い出しただけで俺は射精が出来るんじゃないかというくらい興奮した。
 とにかく凄く可愛い、いやらしい表情をして一樹君は泣きそうになったわけだ。俺はにやりと笑うと彼の頭を撫でてやりながら、甘い言葉を吐いてやる。
「でも、俺はそんな一樹君が大好きだ」
「僕が、好き?」
「うん、大好き。可愛くて苛めたくてたまらなく、スキ」
 そう言えば彼はますます表情を厳しくして顔を覆って俯いてしまった。しまったな、地雷を踏んでしまっただろうか。
 俺はそんな彼の様子を少し見ようと思って、じっと上から見下ろした。なぜだか彼の肩はふるふると震えていて、捨てられた子犬のようだと頭の片隅で思う。
 そういえば彼は優等生君なのにこんな場所に通ってきているのだろう。その理由を知らなかった俺は、きっとこれがその理由だと漠然と思っていた。
 一樹君は顔もいい、頭もいい。だから誰にだってちやほやされて、きっと親にだって。でも、本当の意味での愛情を持って接してもらえた事は無いのだろう。
 顔がいいから、頭がいいから。そんな理由ばかりで彼の本質を好きになってくれた子なんていないんだ。親だって誇りだ何だの言っておきながら将来ばかり期待しているに違いない。
(本当に可哀相な子)



あきゅろす。
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