いらない45




仕切られているせいで二人の姿を伺い知る事はできない。
しかし、なにやら鞄を漁るような音と何かが机の上に置かれる音がした。

「これだけか?」
「一人しか捕まえられなかった、そのかわり凄く可愛くてエロい奴だったから良いと思うぜ」
「それは楽しみだな、早く見たい」

物騒で卑猥な話だなと思いながら、僕はウェイトレスが持ってきたコーヒーを啜る。
どうやらつまみ食いをした女の話をしているらしい。
僕も相手は取っ替え引っ替えだから文句は言えないのだが、良い話題ではないなとため息をついた。

「彼氏が酷い奴でね、どうにかして見てもらおうと必死なんだけど全く相手にされてなくてさ」
「はぁ、それで寂しくなってみたいなやつか?」
「そうそう、とにかく優しくされたくて仕方がなかったみたいでさ…愛撫されたこともないって」
「そりゃ酷いな」

二人はおかしそうに話していたが、僕は嫌な予感に襲われていた。
明らかにどこかで聞いたことのある話だ。
いや、むしろ僕たちの話じゃなかろうか。
彼があの男のところに行った理由が優しくされたかったから、だなんて。
彼の話題をこんなところで、こんな形で聞くだなんて思わなかった。



「あの…すみません…なんの用ですか?てか、どちら様…」



(─────え?)

いきなり聞こえた聞き覚えのある声。
僕に別れを告げた、今話題に上っていた悲劇の青年。

「あれ、僕のこと覚えてない?」
「携帯の電話帳には登録されてたから知り合いかなとは思ったんですけど…すみません、わからないです」
「じゃあ、これ見ながら思い出さない?」

僕は思わず身を乗り出した。
向こうはまだ僕の存在には気づいておらず、彼の手を引こうとしている。
男が片手に持っている黒くて四角い物体を見て、僕は背筋が寒くなった。
彼はその物体を見て不思議そうに首を傾げて。

「ビデオテープ…?」
「そ、これ見たら思い出すよ。僕と君が写ってるんだ。酷い彼氏から逃げてきた君がね?」
「酷い、彼氏…」

余計なことを言うな、彼はあの時のことは長門さんの手によって記憶から消されて覚えていない。
思い出したらまた大変なことになってしまうし、折角彼は僕を諦めたのに。
蒸し返すな、もうこれ以上自分の感情を押さえつける自信がない。

「ほら、見よう?」
「ここじゃ何だからさ、違うところで見ない?」
「え、いや、その…遠慮します…」

彼は強引な男たちからどうにか腕をふりほどくと、断りの言葉を紡ぐ。
しかし、また腕を捕まれて引きずられそうになっていた。
ここは助けるべきだが、僕なんかが出て行ってはいけない気がする。
膝の上で拳を握りしめていると、男の一人がとんでもないことを口にしていた。

「じゃあ言葉を変えようかな?君の恥ずかしいところが丸見えの映像をばらまかれたくなかったら僕たちについてきて」
「────え?」







続く


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