やるせない性2

 彼がやってくるのはいつも決まって金曜日の閉院前だ。
受付時間ギリギリにやってきて診察を受けている。
今日は担当医に頼まれて俺が奴の点滴の準備をしていた。
好都合である。
 いつものように疲れきったような顔をした彼は静かに部屋に入ってきた。
小さなベッドと荷物入れだけがひっそりと置かれているこの部屋はどこかひんやりとしている。
 肩に担いでいた荷物をしんどそうに下ろし、荷物入れに入れた彼はぺこりと俺に頭を下げてからベッドに腰かけた。
ああ、スリッパを脱ぐ仕草までにドキドキして仕方がない。
早く、犯したいし、犯されたい。
 はやる気持ちを抑えながら俺はペラリとカルテを捲った。
そこには「古泉一樹」と記されており、やっと彼の名前を知ることが出来る。

(一樹クン、ねぇ…)

 彼の名前を頭の中で繰り返しながら、俺は彼に右腕を出すように言った。
そうすれば、彼はおずおずとシャツを捲り上げて右腕を差し出す。
差し出された右腕は真っ白で透けて見えるほどだった。
でも、手首のところには無数の傷。

(リストカットもしてんのか、コイツ)

 やべぇ、可愛い…だなんて口走りそうになったのを必死にこらえた俺は、血管を探り当てて針を刺した。

「――――…!」

 その瞬間、こいつ…古泉の顔が一瞬快楽に歪んだのを俺は見逃さなかった。
チクリと肌を突き刺す痛みにさえ悦楽を感じてやがるだなんて、コイツも相当だ。
いや、俺だって負けないくらいの変態だがな。
 切なげに歪んだ顔を見ていたら俺だって興奮してきて、今すぐにコイツを押し倒してしまいたい衝動に駆られていた。
でも、今はもう少しガマン。
下準備は完璧なのだから、点滴が終わってからでも遅くはない。

「横になられても構いませんよ」

 そう、優しく(見えるように)声をかければ、古泉は少しだけ微笑んで礼を言うとベッドに横になった。
どうやら座っているのも辛かったらしく、横になった途端、深くため息をつくと針が刺さっていないほうの腕で顔を覆ってしまう。
 ああ、そんなことしたら俺が気に入っている可愛い顔が見えないじゃないかと不満を漏らしたくなったが、そこはぐっと我慢して俺は来るべき時を待つことにした。
早く、食べてしまいたい。





 しばらくすると、点滴の袋に入っていた薬剤はすべて古泉の体の中に取り込まれてしまい、針を抜くときがやってきていた。
俺はうとうとし始めていた古泉を起こすとすっと針を抜く。
ソレを抜かれる瞬間、少し残念そうな顔をしていたのにも気付いたが、悪いがこれは仕事だ。
お前の中に残しておいてやりたい気持ちは山々だが、医療ミスだなんだと騒がれるのはごめんなんでね。
 俺は注射針の痕にガーゼを当ててテープで固定してやる。
そうすればもう終わりだろうと思ったのか、古泉は立ち上がろうとした。
 いつもはこれで終わりかもしれないけれど、きょうはこれで終わりじゃないんだぜ?
 俺はにやり、と笑うと古泉の肩を押して、もう一度ベッドに座らせた。
驚いたような顔をして見上げてくるもんだからドキドキしてたまらない。






続く


あきゅろす。
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