シリウス6




足下の覚束無い俺を見て古泉はにや、と笑うとベッドに向かって俺を投げ飛ばす。
もちろん力なく投げ飛ばされることしかできない俺は、ベッドに倒れ込む。
そんな俺の上に乗り上げた古泉は楽しそうに口元を歪めた。

「なんなんだよ…!」
「古泉のお気に入りとやらを壊してみたい、それだけです」
「おまえだって、古泉だろう…!」
「古泉は古泉でも、別人格ですがね」

はは、と笑うと古泉は俺の手を頭上でひとまとめにすると、ベッドの柱にネクタイで繋いでしまった。
こんな拘束をされるだなんて思っていなかった俺は、さすがに怖くなってきて眉を下げる。
怖い、逃げてしまいたい。
見たこともない種類の古泉を見て、涙が滲む。

「良いですね、その表情…とても欲情します」
「…変態!」
「褒め言葉ですか」

何とも屈辱的で、俺は身を捩りながら古泉から逃げようとする。
戒められた両腕もどうにか解放しようと、むちゃくちゃに動かす。
熱がこもってヒリヒリしてきてもお構いなしに泣き叫んだ。

「いやだあぁ!やめろ、古泉、こいずみぃ…!」
「やめろ?よくそんなこと言えますね」

にこり、ときれいに笑って古泉は残酷な言葉を口にした。


「僕のこと、好きな癖して」


一瞬時間が止まる。
何を言っているんだ、偽古泉は!と頭の中でつっこみを入れる余裕もない。
しかも、妙に心拍数が上がって胸が苦しい。
俺はひどく顔を歪ませて古泉を見上げる。
そこには勝ち誇ったような顔をした古泉おり、俺は絶望した。

「僕が気づいている、と言うことはもう一人の古泉一樹もあなたの気持ちには気づいているでしょうね」

なのに何も言ってこないのなら、可能性は無いんじゃないんですか?と残酷な事を口にして古泉は笑った。
俺はといえば耐えきれなくなった涙が頬を伝ってあふれ出していて。
何でこんなことになったんだろう。
もう、訳が分からない。
そんな俺に向かって古泉はさらに残酷なことを口にした。

「僕でよろしければ恋愛ごっこ、付き合って差し上げましょうか?」
「…は?」
「言葉の意味のままですよ、あなたの事を何とも思っていない古泉一樹の代わりになりましょうかと提案しているんです」

イヤだ、と口にする前に。
俺の唇は古泉の唇によって塞がれていた。
なま暖かい舌が無遠慮に入り込んできて、俺の口内を犯す。
あんまりな仕打ちに心がずき、と痛んだ。

「ああ、でも」

何かを思い出したかのように唇を離した古泉はきれいに微笑んで、こう言った。



「ほとんど優しくだなんてして差し上げられませんが」










続く


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