シリウス5





鋭い眼光はじぃ、と亀裂を見つめている。
俺はなんだか怖くなって目を逸らした。

古泉なのに、古泉じゃないみたいだ。
この古泉が言っていたことは本当なのかもしれない。

やがて閉鎖空間が完全に崩壊したのに気づいた頃には、俺は古泉の手のひらを握りしめたまま昇降口に立ち尽くしていた。
あたりはしん、と静まりかえっていて人の気配はしない。
とにかく、古泉の足の手当をしなければ、と思い立った俺は古泉の手を引っ張った。

「おい!保健室行くぞ」

もちろん、古泉が今どんな表情を、どんな目をしているのかは怖くて見れない。
でも、手当だけは決行しなければと無理矢理手を引っ張って、俺は保健室に向かうことにした。
その最中、古泉は抵抗することなく、素直に俺についてくる。

「失礼しま、あれ?」

がらりとした保健室。
いつもは運動部のけが人で賑わっている時間なのに、今日はもう営業終了したみたいだ。
俺はがくりと肩を落としながら、椅子を指さし古泉に座れと促した。



はずだった。




「──え?」

ぐん、と強く腕を引かれて投げ飛ばされる。
突然のことに抵抗も出来ずに、俺はあっさり吹っ飛んだ。
がちゃん、と激しく音を立てながら薬瓶が床に落下する。
ああ、オキシドールの匂いが酷い。

「何、するんだよ」

そう聞いてみるが、返事はない。
恐る恐る見上げた先にあったのは、酷く興奮した古泉の顔だった。
どうしたものかと俺は視線を彷徨わせる。
そんなことをしている間に、古泉は床に座り込んだ俺の顔を覗き込んでいて。

「ふふ、すみません」
「な、に…?」
「いつも以上に気分が高まっちゃってまして…加減ができま、せん!」

その言葉と共に、頬がかあっと熱くなる。
紅潮したわけではない。
殴られたのだ、古泉に。
古泉にこんな暴力的なことをされるだなんて、思っても見なかった俺はただただ頬を押さえてこいつの顔を見つめることしか出来ない。
ムカつくとか、悲しいとか、そんな感情は今はなく、ただ驚きだけに支配される。
目をまん丸くして古泉を見上げれば、奴は嬉しそうに笑って俺の前髪をぎゅ、と掴んだ。

「────痛っ!」
「立って下さい」
「な、に?」
「立て、と言っているんです」

口元は笑っているのに、目は笑っていない。
どうしたらこんな器用な表情が出来るんだ。
そんなことを思いながら、俺はよろよろと立ち上がった。










続く


あきゅろす。
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