シリウス4




周りにいる赤い球より、より俊敏に古泉は飛び回っている。
しかし、次の瞬間。

「────古泉!」

神人の右手により、古泉だと思われるものが吹き飛んだ。
真っ青になった俺は、ひたすら古泉の名前を呼び続ける。
すると、落下したと思われる場所から、ふわりと赤玉が浮かび上がった。
生きていた、と安堵したのもつかの間。
また、古泉は果敢に神人に向かって飛んでいったのだ。
待て、あれだけ吹き飛ばされれば怪我でもしているんじゃなかろうか。
また不安になった俺だったが、戦況の行方を見守ることしか出来ない。
だって、薄青い壁のせいで動けないから。

「古泉…死ぬなよ…」

そう、ぽつりと呟いたとき。
一気に赤い球は神人の周りを取り囲み、素早く動き回る。
順を追って神人の腕や足、胴体がずるりと切り離された。
閉鎖空間を震わす神人の断末魔をどこか遠くで聞きながら、俺は消えていく神人を見つめていた。





俺がぼんやりと神人がいた空間を見上げていると、程なくして古泉がこちらに戻ってきた。
目を閉じたまま、とすんと地上に降り立つ。
その瞬間、俺を守っていた膜もスウ、と消えてしまった。
俺はすぐに立ち上がり、立ち尽くす古泉な駆け寄る。
怪我はないか、精神的には大丈夫か気になって気になって。
おそるおそる俺は古泉の顔をのぞき込み、様子を伺う。

「…大丈夫か?」

そう、声をかけると古泉の目がうっすらと開かれる。
しかし、その瞳の冷たさは俺を怖がらすには十分だった。
いつもとは違うその目は、俺を見てス、と細められる。
明らかに、知らないものを見るような目だった。

「こ、いずみ…!」
「おやおや、あなたが¨古泉のお気に入り¨ですか」
「な、なんだよ…」
「僕はあなたの知る古泉一樹ではありませんよ」
「…は?」

一瞬何のことだかわからずに、俺は目をぱちくりさせた。
何を言っているんだ、こいつは。
古泉と同じやつに古泉一樹ではないと言われて、理解できるだろうか。
いや、できない。
相変わらず冷たく微笑んだまま、古泉は俺を見下ろした。
どうしたら良いかのか分からなくて、俺は目線を逸らす。
その先には酷く傷ついた古泉の足が目に入った。

「───これっ!」
「…あぁ、今日は少ししくじってしまいました」

そう古泉が呟いたとき、閉鎖空間にピシッ、と亀裂が入る音が響きわたる。
見上げれば、灰色空間に光が射し込んでいて。
次の瞬間にはがらがらと音を立てて崩壊が始まった。
それをぼんやりと見つめてた古泉だったが、突然目の色が変わる。
冷たいどころじゃない、肉食動物のようにぎらぎらと光を放っていた。









続く


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