シリウス2





だめだ、これ以上一緒にいたら何を言い出すか分からない。
俺は慌てて立ち上がると、びっくりするくらいか細い声で「帰るぞ」と呟いた。
それを聞いて古泉はにこりと笑うと、かばんを持って立ち上がる。
先ほど俺が何か言いかけたことにたいして言及もしてこなかった。

「暗くなってきましたし、それに少しお腹もすきましたね」
「ん、ああ…」

いつもと変わらない彼。
その態度がさらに痛々しくて俺は泣けてくる。
なんだよ、すごいストレスを発散させるために意識がぶっ飛ぶだなんて、そんな。
そんなに辛いのかよ、いつもはそんなにニコニコ笑っているくせして。
眉が自然と寄り、深いしわが眉間に生まれる。
そんな俺の顔を見て、古泉は申し訳なさそうに笑った。

「僕のことであなたが心を痛める必要はありません」
「でも…!」
「あなたの心を痛めている感情が同情なら、いりません」
「違う、同情じゃない…!」
「じゃあ、何ですか?」

そう問われて言葉に詰まる。
だって、恋心だなんてそんなの言えない。
しかし、それを分かっていない古泉は悲しそうに笑って「でしょう?」と肩をすくめた。
違うのに、言えない苦しさに胸が詰まる。

「俺は、ただ…!」

そう、口にした途端、けたたましく携帯電話が鳴り響いた。
俺の着信音ではない。
古泉はゆっくりと携帯電話を取り出して通話ボタンを押した。
ああ、きっとあの薄暗い、寒くて悲しい空間へのお誘いに違いない。
古泉はぽそぽそと何かを喋り、電話を切る。
そして、にっこりと笑うと「閉鎖空間が生まれた模様です」と言った。

「…行くのか?」
「もちろん、早く来いと急かされました」

どうやら今回は相当規模が大きいみたいですね、とへらりと言うと古泉はつかつかと歩き出す。
その背中を俺は必死に追いかけた。
行くな、行ったらお前はまた我を失うほどのストレスに押しつぶされてしまうんだろう?

「良いのです、それが僕がここにいる理由、僕が生きている理由」
「――お前は、本当にそれでいいのかよ!」
「ふふ、あなたには分からないでしょう?」

その言葉にかちん、と来る。
まるで、俺なんていらないみたいに言われて。
そんなので納得できるはずがない。

「さて、実は今日の閉鎖空間はここなんです」

ぴたり、と立ち止まった先は学校の昇降口。
こんな所に閉鎖空間への入り口があるのかと思うとぞっとする。







続く


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