シリウス





「僕、もう疲れました」

そう、いつもの笑顔で古泉は言った。






シリウス













「…どうしたんだよ、お前らしくない」

カラカラののどからそう、振り絞るように出た言葉がこれとは、俺としても情けないことだった。
古泉は相変わらずにこにこと笑って机にひじを突いてこちらを見ている。
真っ赤な夕焼けに染まった部室で、俺たちは二人きり。
ハルヒたちはとっくの昔に帰ってしまい、オセロの決着が付いていなかった俺たちだけが残っていた。
俺は何を言えば良いのかなんて分からなくて、視線を彷徨わせる。
古泉はくすり、と笑って「聞いてくれるだけでいいですよ」と言った。

「僕、閉鎖空間から帰った後の記憶が最近ほとんどないんです」
「…は?」
「でも、確実に"何か"をしているんです」
「何かって…」
「酷いストレスを発散させるために、あれやこれやと」

いやぁ、それはもうびっくりしました、と奴はへらりと笑った。
いやいや、笑うところじゃないだろう。
しかも、お前は何をしていたんだと恐る恐る聞くと。

「あなたには刺激が強すぎますよ」

と、あっさりかわされてしまった。
しつこく聞くほどのことではないだろうと思っていると、古泉は一つだけ教えて上げましょうか、と言った。

「朝起きたら知らないお姉さんの隣で寝ていたり」
「────ッ!?」
「ほら、あなたには刺激が強すぎるでしょう?」

そう、面白そうに言われれば余計恥ずかしくて、腹が立った。
でも、古泉は未だに穏やかに笑っていて事態を危惧している様子は見られない。
原因は分かっているのかと問うたが、少し困った顔をして肩をすくめるだけに終わってしまった。

「お前、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だと言いたいのですが、そうでも無いみたいですね」

はあ、とため息をついた古泉を見て俺は眉が下がる。
前に一度自殺を考えたことがある古泉の事だ。
いつもはこうしてへらへらしていても、辛いことは全部自分で抱え込んで。
誰にも理解されない、だなんて思っている。

(お前は馬鹿だよ)

ぎゅ、と唇を噛みしめてしまう。
なぜか俺の方が悲しくなってしまった。

「なあ、辛いことあるんなら言えよ…俺くらいは聞いてやれる」

そう言えば、古泉は心底驚いたと言わんばかりに目を丸くした。

「あなたからそんな言葉が聞けるとは思いませんでした…優しいんですね」
「──ッ、だって!」

そこまで言って口をつむる。
言えるわけがない、だって、だって。




お前が好きだから助けてやりたい、だなんて











続く


あきゅろす。
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