甘い眩暈3





「ふふ、申し訳ないです。怒らせるつもりはなかったのですが」
「…えっ、いえ…!怒ってなどいません」

慌てたように彼は言い訳を始めたが、正直それはどうでもいい。
ただ、僕は面倒くさいことをさっさと片づけたいだけなのだ。
にっこりと笑って、彼を招き寄せる。
彼は戸惑いながらも、僕の元にやってきた。

「まあ、座ってください?お話しましょうよ」
「…しかしっ!」
「良いんですよ?異動で疲れているでしょう?それに、僕はあなたのことをもっと知りたいので」

にっこり笑って彼に席を勧めると、彼は遠慮がちにソファの前に立った。
僕がソファに座ってしまえば、彼は諦めたようにその場に腰を下ろしてくれる。
ちょこん、と座っている彼が可愛らしい。

「ふふ、入隊の動機は何ですか?」
「私の家族を戦争で亡くしてしまい、それで…」
「ああ、そうだったのですか…失礼なことを聞いてしまって申し訳ないです」
「いえ、とんでもないです!どこででも聞くような理由ですから…」

彼は申し訳なさそうにそう言うと、控えめに手を振った。
仕草もなかなか可愛いな、と僕はぼんやりと彼を眺める。
僕があまりにも凝視するから居心地でも悪くなったのだろう。
彼は何か話題を、とばかりに口を開いた。

「俺、じゃなくて!私、古泉幕僚総長をスゴい尊敬してるんです!」
「んふ、なぜです?」
「だって、お若いのに総長までなられて…頭が切れるやり手だって評判じゃないですか!」

彼は目をきらきらさせながら僕を見つめている。
完全に油断しきっている彼に頬が緩みそうだ。
彼は何も知らない。
僕が何をしようとしているかだなんて。

無防備で、無知で、無邪気な彼。
さあ、どう遊んであげようか?

僕を憧れの眼差しで見つめている彼には、優しく接してあげる方がいいだろう。
優しく、優しく愛してあげて、最後に裏切って絶望の底に突き落とす。
きっとそれがいい。

絶望に歪んだ彼の表情を想像しただけでゾクゾクした。

僕はにっこりと笑って彼に優しく声をかけてあげる。

「あなたみたいな方に褒められると嬉しいです、頑張った甲斐がありました」
「いえ、そんな…」
「僕もあなたのことが気に入りましたよ?なんだかとても可愛いです」
「可愛いだなんて、私、男ですから…」

照れたように手を振って、彼は自分の膝のあたりをじっと見つめている。
僕のこと、恥ずかしくて見ることができないみたいだ。
くすくすと笑っていると、彼が何か呟いた。

「……、なんですか?」
「え…いや、その…古泉幕僚総長もとても素敵な方だと言うのは集会の時遠目で拝見したので知っていたのですが、こんなに近くでお会いしてみると、もっともっと素敵な方だったので…」
「だから?」
「そ、の…男でもどきどきするくらい色っぽい、男らしい方だと…」

彼は恥ずかしげに視線を彷徨わせている。
ふうん、なるほど。
これは好都合だ。










続く


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