squall[happy end version]


ロイは必死で走った。
これまでこんなに必死で走ったことはないと言うくらい全速力で自宅へ向かう。
きっと一人で泣いているだろう彼の元へ懸命に走る。

「待っていてくれ、エドワード…!」




















ロイは勢いよく自宅のドアを開けた。
そこにエドワードの靴があることを確認して胸をなで下ろすと靴を脱いで玄関にあがる。
そして冷たい廊下を歩き、寝室へ向かった。
とにかく一刻も早くエドワードを抱きしめたくて。

寝室の前に着くと急にエドワードと顔を合わせるのが怖くなる。
だが、そうこう言っているわけにも行かないとロイは心を決めてドアを開いた。

「エド、ワード…」

小さく声をかけながら入室する。
しかし、なんの反応も示さない布団の小さな山にロイは悲しい気持ちで近づいた。
そして今度はそっと薄いシーツの上から触りながら声をかけようとする。

「エドワ…ッ!?」

ロイはエドワードにふれた途端、びくっとしてその手を離した。

「冷たい…」

そんなバカな!

ロイは我を忘れてシーツを乱暴にめくりあげるとエドワードを抱きしめた。
すると伝わってくる温もりとうめき声。

「ん…苦し…」
「エド…生きて、いる…?」
「え、あ…!」

ロイはエドワードを一旦胸の中から解放すると突然のことに驚きを隠せずにいるその瞳を見つめた。
そして自分がさわったところ…右肩に目を落とす。

「オートメイル、か…」
「なっ、なんなんだよ!離せ!」

ぐうぅ…っとエドワードはロイの腕を引きはがす。
そしてベッドの上にずりずりと這い上がり、シーツを手元にたぐり寄せた。
その手は微かに震えていてロイは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかしエドワードを怖がらせないようにとゆっくりと手を伸ばした。
そしてふっくらとした頬に触れる。
エドワードはぴくりっと体を震わせた。

「…ッ、すまない」

ロイはぱっと手を離す。
それが恋愛に慣れない男のすることのようで内心苦笑する。
自分はそこまで余裕がないのかと、エドワードをどんなに必死に手放したくないのかと思うと自分が滑稽な存在に思えた。

「エドワード、すまない…」
「な、にがだよ!」
「ひどいことをした、君の気持ちも知らず…」

シーツを握り、震えている手をぎゅうっと上から握りしめる。
エドワードの左手はとても温かくてロイは不意に泣きそうになった。
そんなロイを察してか、エドワードは警戒しながらもロイの顔をのぞき込む。
そのエドワードの心配そうな顔をロイは濡れた漆黒の瞳で見つめた。

「もっと私を好きになればいい」
「…!!?」
「離れられないなど甘えたことを言うのなら私がお前の背を押す」
「どっ、こでそれ…」
「君の目的はそんなに簡単に手放せるものなのか?もしそうなら私は許さん」

それだけ言うとロイはエドワードを抱きしめた。
その腕に自然に力がこもってしまってロイは苦笑する。

「…私だけが必死だな」

離したくなくて気の利いた言葉が何一つ出てこないのだ。
しかしどうにか、どうにかつなぎ止めたくて。
するとエドワードがゆっくりとロイの背中に腕を回す。

「俺も、ごめん…ロイが好き、すぎて…怖くなったんだ」

もっと一緒にいたらもっと好きななってしまうのではないかと
離れられなくなるのではないかと

そう思うと怖くて逃げ出した。

「俺、卑怯だ…逃げるなんて最悪だ」

ぽろっと瞳から涙がこぼれる。
勝手な自分が情けなくて申し訳なくて。
それなのにこんなにも自分を抱きしめてくれるロイが自身にはもったいないように思えた。

「ロイは俺にはもったいないよ…」
「何を言っているんだ!それとも私が嫌いか…?確かに酷いことをしたから嫌われても仕方がない、か…」
「ちがうっ、嫌いじゃない…!」

そう叫んでエドワードはロイに必死に抱きついた。

「好き…だよ…」

それだけ言ってエドワードは黙りこくってしまう。
ロイはそんなエドワードに口づけたくて胸からエドワードを解放しようとした。
しかし顔を見られるのが非常に恥ずかしくてエドワードはロイの胸から引き剥がされまいと胸に張り付いた。

「まったく君は…可愛いね」

そういってロイは唇を諦め、額にキスする。

「エドワード…許してくれ、そしてもう一度私とやり直してはくれないか?」
「ッ、俺、こんなに酷いやつなのに?」
「酷くなどないよ、むしろ愛おしい」
「俺、卑怯者でっ醜い…!」
「全部含めて大好きだ」

そういってさらに強い力で抱きしめるとエドワードはロイを見上げた。
目は真っ赤に腫れて痛々しい。

「ダメ…ッ!」
「なぜ?」
「違う、んだ!」

そういってロイの腕から逃れると。
まっすぐとロイの瞳を見つめて。

「こんなに酷い俺だけど、絶対ロイのことが世界で一番好きだって言う自信はある!だから…だから!」

これは自分から言いたい。

「俺ともう一回やり直してください…!」

胸がドキドキで張り裂けそうだ。
ロイのことが直視できない。
しかし長い沈黙に耐え切れずにエドワードは伏せていた瞳をロイに向けた。
そこには予想していた顔とはまったく違う情けない表情。

「ロイ…?」

そう声をかければ青年ははっとしたようにエドワードと目線を合わせる。
慌てたエドワードは何か言おうと必死で言葉を紡いだ。

「だ、だって俺から別れようなんて言ったんだし、俺からもう一回付き合ってって言いたかったんだ!そそそれに、ロイは謝る必要ないしっ…!?」

途端、唇をふさがれた。
いつもの優しいキスではなく乱暴なものではあったがエドワードは満たされるのを感じる。

ロイがいっぱいに満たされる。

離された唇からはどちらのものとは分からなくなった透明な糸が引いた。

「ロイッ…!」
「エドワード…!」

なし崩しに二人ともベッドに沈む。
もっとお互いを求め合いたいと二人は思ったのだ。
それは二人ともただ求め合いたくて、感じあいたくて。
優しくなんか無い、獣のようなセックス。
それでも悦びに満ち溢れたそれ。














自分の気持ちに嘘なんかつかなくてもいい。

そんなことしなくてもいつでも受け入れてあげるから。







end








ようやく終わりました。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
正直最後エロを入れるか入れないか迷ったのですが無理にエロを入れて雰囲気壊したくなかったのであえてエロなし。
気に入ってくだされば嬉しいです。

では次の作品でまたお目にかかりましょう。


橘みずき




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