いらない9





「全くもって効果がないのですが」

僕はいらだちを隠せない、と言わんばかりに長門さんに詰め寄った。
涼宮さんに話をすればするほど、彼女の興味は薄れていっている気がする。
どうしようもなく、焦れば焦るほど彼女の興味を削いでいっているようなのだ。
長門さんが言っていることには間違いが無いはずなのに、ここまでくるともう嘘にしか思えない。
しかし、はっきりと嘘だ、だなんて言えない僕はやんわりと詰め寄った訳で。
僕がこんなにも焦っているのに、長門さんはと言えば静かに本を読んでいる。
そんな彼女の態度にそろそろ苛立ちが隠せない。

「どうするんですか、キョン君がこちらに戻れなかったら」
「大丈夫」
「何が大丈夫何ですか、現に涼宮さんの女体化への興味は完全に薄れていっています」
「それでも、大丈夫」
「あなたはキョン君が消えてもいいんですか!」

そう叫ぶとふい、と長門さんの琥珀色の瞳が僕を捕らえた。
なぜだか、どきりとして僕は手のひらを握りしめる。
長門さんは少し、怒ったような目の色をしていて、僕ははっとした。

「彼にあれだけ酷いことをしたあなただから、彼に消えて欲しいのかと思っていた」

ぽつり、と呟いたその言葉に心臓が跳ね上がった。
そうだ、僕はあれほどまで彼を嫌っていたのに、消えて欲しいとまで思っていたのに。
なのに、何をこんなに必死になっているんだ。
本当に馬鹿みたいだ。
口元にうっすらと笑みを浮かべて、首を振る。
違う、違う。
僕は彼を救おうとしているんじゃない。
世界を救おうとしているのだ。
彼は神のお気に入りで、世界のすべてを握る鍵で。
そんな彼が羨ましくて、妬ましくて、眩しすぎて、だから汚してやろうと思った。
こんなに僕は苦しんでいると言うのに、彼は神に愛されて毎日笑っていて。
僕はと言えば、毎日用意された笑顔の仮面を貼り付けているだけ。
作り物の笑顔で笑いかければ誰もが騙された、でも。
でも、彼は騙されなかった。

「お前、無理して笑ってんな」

困ったように笑って、そう呟いた彼の声が頭にこびりついて離れない。
彼は本当の僕を容易く見破ってしまった。
そのとき酷く動揺してオセロを指先から床へ落としてしまったことが思い出される。

「僕は、彼が嫌いなんです…でも、世界のために守っている」

無理矢理、自分に言い聞かせるように声を絞り出すと、僕はきびすを返した。
今日はもう帰ろう。
今日の僕はどうにかしている。
彼をこんなに必死になって助けようともがいて、焦って。
馬鹿馬鹿しい。

「自分の気持ちに嘘をつくのは簡単、だけど自分の気持ちと向き合うのは難しい」

ぱたんと本を閉じて長門さんは立ち上がった。
ごそごそと鞄の中にいままで読んでいた本を片付ける。

「後はあなた次第、あなたが、どうしたいか。それだけ」












続く


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