黒の感情11




誰かが呼んでいる。
俺の名前を掠れた、泣きそうな声で呼んでいる。
それに答えてやりたいのに、疲労した体は言うことを聞かず、目覚めることを拒否していて。

ごめんな、ごめんな?
答えてやりたいのに、すごく眠いんだ。
また、意識がふわっ…と遠ざかる。
しかし、ぽたりと頬の上に落ちてきたなま暖かい水滴にはっとした。











目覚めると真っ白な天井。
体は重くて動かす気にもなれず、目だけを動かす。
右に目を向けると、清潔そうな青いカーテンがあった。
左に目を向けると、大好きな奴がみっともなく泣いていた。

俺はそろり、と腕を上げると頬を伝う水滴を拭ってやる。
ああ、夢の中で出てきたなま暖かい水滴はこいつの涙だったのか。

「…どうした?」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」

奴は頬にのばしていた俺の手を取るとぎゅ、と握りしめ、顔を歪めると何度も同じ謝罪を繰り返す。
俺は何で古泉に謝られているのだろう、と不思議に思いながら首を傾げた。
俺があまりにも何も無かったかのような顔をしていたもんだから何か勘違いしたのだろう。
さらに悲痛に顔を歪めたこの男はうつむいてしまった。

「ごめんなさい…警察なり神なり、好きに差し出してください」
「んなこと、すっかよ…」
「………」

そんな奴に俺は思っていた質問を投げかける。

「なんで、あんなことをした」
「それ、は…」

言葉を濁して、さらに俯いてしまった古泉に、もう一度声をかける。

「俺はお前が好きだと伝えたぞ?」
「……」
「それとも、俺のこと憎くて無理矢理犯した?」

そう、問いかけると古泉の表情が一気に厳しいものになった。
追い打ちをかけるように、最後に一言言い放つ。
小さな、小さな、消えそうな声で。

「俺のこと、嫌い?」

そう呟いた途端、がばりと抱きしめられて俺は目を見開いた。
抱きしめられた、と言うよりかは覆いかぶさられた、と言う方が正しい気もするが。
とにかく、あまりにも突然な古泉の行動に俺は体を凍らせた。

「違うんです、僕はただ、ただあなたのことが…」
「俺のことが?」
「どうしようもなく、好きなんです───ッ!」

ずっと聞きたかった言葉がやっと聞けて、俺は気持ちが軽くなっていくのを感じる。
待ち望んでいたたった二文字が心に響いて染み渡る。









続く


あきゅろす。
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