squall[HAVOC side]
ハボックは司令部の屋上でぼんやりと夕焼け空を見上げながら物思いに耽っていた。
考えているのは先程上司の恋人に相談されたこと。
自分は恋愛経験はあるものの、そのような相談を受けるような域には達していない。
「はぁ〜…」
好きすぎて一緒にもういられないとか大佐は愛されていてうらやましい。
俺もそんな風に誰かに愛されたい…
なんて考えてまたため息をつく。
そして、エドワードはどうしてしまうのだろうかと思った。
少し、いや、かなり心配だ。
「大佐のことだからなぁ…」
ハボックはエドワードよりロイとのつきあいが長い。
だからロイの周りで起こってきた恋愛沙汰を見てきたし、ロイがこのようなときにどうするかということが分かるのだ。
きっと大将は泣くだろうなぁ…
またため息をつき、ハボックはそろそろ仕事場に戻ろうときびすを返した。
執務室に帰ると例の上司はおらず、代わりにあったのは自分の机にこんもり積まれた書類。
「…………」
ハボックはあんぐりと口を開け、くわえたばこを落としかけた。
そのたばこを寸前のところでキャッチしたブレダが苦笑いする。
「可愛い恋人とデートだってよ」
「…っ」
「?どうした、ハボ?」
少し顔をゆがめたハボックにブレダは不審そうに首を傾げる。
しかしそれに気づいたハボックは何でもないよと言った。
「とにかくこれ終わらせなきゃな」
「だな」
ははっと空笑いして二人はデスクへ向かった。
しかし、ハボックはなかなか仕事に集中することが出来ない。
頭の中は苦しそうに相談をしてきたエドワードのことだらけだった。
「やっ…と終わった!」
ハボックはぐいーっと背伸びをした。
コレでもう帰って良いだろう。
ブレダはさっさと終わらせて帰ってしまった。
時計を見ると九時前。
「大将…なんてったのかな…」
不意に出た言葉に驚いた。
自分が心配してもどうにもならないとは分かっているのだがやはり気になってしまう。
今日何回目だか分からないため息をついてハボックは執務室を後にした。
今日の夕飯の肉まんを二個購入してハボックは夜道を歩いていた。
セントラルの夜は冷え込んで寒い。
だから肉まんが食べたくなったのだ。
ほくほくとした感触を楽しみながら公園のそばを通り過ぎようとする。
「あれ…」
そこには見覚えのあるシルエット。
「大佐…?」
ハボックは公園に入り、上司の後ろにたつ。
それに気づくことなく、上司は頭を抱え、物思いに耽っていた。
「たーいーさー」
「…っ!!?」
ビクッとして上司はハボックを振り返る。
その顔はひどくやつれ、疲れているように見えた。
ハボックはやっぱりなと思い、ロイの隣に腰掛ける。
「大佐、はい」
ぽすっと肉まんを一つ無理矢理渡してハボックはもう一つにぱくっとかぶりついた。
「私は食欲などないぞ、ハボック…」
「まぁ持ってるだけでも暖かいっスよ」
渋々それを受け取るとロイはため息をついた。
「私は最悪な男だ…」
「大将に別れようって言われんスよね?」
「…なぜ知っている?」
「大将に相談されました」
「なにをっ!なぜ私に言わない!?」
ハボックは苦笑して落ち着いてくださいとロイに言う。
「大将になんで別れようと言われました?」
「ただ、別れようと…理由は話してくれなかったんだ…」
「やっぱりそうスか…」
「なのに私は彼を…無理矢理…ッ!」
再度頭を抱え、ロイは嘆いた。
「大佐聞いてください…俺、別れようとした理由、知ってます」
ロイはゆっくりと顔を上げる。
その目は教えてくれと訴えた。
「大将はね、俺に相談してきたんです、大佐が好きすぎて別れたいって」
「…は?」
「大佐と一緒にいたらもっともっと好きになってしまう、甘えてしまうって」
ハボックはちらっとロイの顔を見る。
見たことがないくらい情けない顔だ。
「大佐をもっと好きになったら離れられなくなって目的を見失いそうになるそうですよ」
そう言ってハボックは笑った。
「大佐、すっごい愛されててうらやましいっスよ、だから…」
「すまん、用事が出来た」
がたっとロイは立ち上がる。
「ありがとう、ハボック、そしてすまない」
ずいぶん温くなった肉まんをぽんっとハボックに渡すと、ロイは走り去っていった。
「大佐が走るなんて珍しい…ってか何で謝られたんだ?」
二個目の肉まんを口にしながらハボックは何か謝られるようなことをされたかと思う。
しかし特に思い当たるところがなかったのでハボックは考えるのはやめた。
そして今からのあの二人のことを考える。
きっと今から大佐は必死でエドワードに謝るのだろう。
そして最後に愛していると愛の言葉を囁くのだ。
「俺って結局良い人終わりだよなぁ…」
ポケットからたばこを取り出すと口にくわえ、火をつける。
肺いっぱいに煙を吸い込んでふぅーっとはいた。
「頑張れ、大将、大佐」
すくっとハボックは立ち上がると夜空を見上げる。
そして帰路についたのだった。
end
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