苦くて甘い、
俺は部室の机に突っ伏していた。
パソコン前にはハルヒがいるし、窓際には長門、ポットの前にはメイド姿の可愛い朝比奈さんがいる。
でも。
でも、目の前に奴はいない。
顔を上げたって、奴の顔はないのだ。
今頃、どこぞかの女の子に囲まれているに違いない。
(優しい奴だから断ったりしないんだろうな…)
きっと、山のようなチョコレートを受け取って困ったように笑っているんだろう。
ああ、イヤだなぁだなんて思ってしまう自分は末期だ。
突っ伏した額をごりごりと机に擦り付ける。
早く帰りたい。
今日古泉に会いたくない。
鞄の中に入っているものがどんなに無駄になろうとも、早く帰りたかった。
(と言うか、渡す気もないものを購入して、あまつさえ持ってきてしまうなんて)
最悪だ。
心の中にもやもやが広がって、気持ち悪い。
こんな思いを持て余している自分が何より気持ち悪い。
「気持ち悪い…」
ぽつり、と呟いたその声までハルヒに聞こえていたのか。
奴は目を細めて、こちらを睨んでいる。
「何なの、あんたの方が気持ち悪いわよ!さっきからずっとため息ばかりついて!」
「五月蠅い…体調が悪いだけだ…」
「どーせチョコレート貰えなかったからって落ち込んでるんでしょう!」
さっき私が義理チョコあげたじゃない!と喚いているハルヒに背を向けて、俺はもう一度机と仲良しになる。
早く機嫌を損ねて解散してはくれないだろうか。
しかし、今日はそう言うわけにはいかない。
なぜなら、ハルヒは古泉のもらってくるチョコの数を期待しているからだ。
俺だって、義理ではあるが何個かチョコレートは頂いたのだが、俺のには全く興味はないらしい。
「早く古泉君こないかしら!きっともの凄い数のチョコレートに決まってるわ!」
ハルヒは目を輝かせて古泉の来訪を心待ちにしている。
古泉に用があるなら俺は帰りたいのだが。
「だめよっ、あんたは古泉君の教えを直々に受けないと!」
訳が分からない。
とにかく、イヤでも古泉に顔を合わせなければならないのだ。
悶々としながら、脇に置いてある鞄に目を落とした。
中に入っているものを早く焼却処分したいのだが。
そう思っていると、いきなりドアノブが回った。
「遅れて申し訳ありません」
低くて優しい響きの声が、鼓膜を震わせる。
俺は突っ伏した上にぎゅっと目を瞑って、完全に外界からの視覚を遮断した。
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