密室
とぼとぼと、夜道を歩く。
腰をかばうように、ゆっくりゆっくり歩くその金髪の少年は、月明かりに照らされて長い影を作る。
よた、とつまづきそうになるのをなんとかやり過ごし。
彼はごしごし、と目元を拭った。
「糞鬼畜大佐め…!」
吐き捨てるようにそう呟く。
彼がそう言いたくなるのも無理はない。
なぜなら、彼は上司とも言える男に無理矢理暴かれたからだ。
事の始まりは、彼が大佐の元を訪れたことがきっかけだった。
報告書を片手に、彼はいつもの調子で執務室に乗り込む。
「大佐いる?」
「あら、久しぶりねエドワード君」
大佐のお守り役と言っても過言ではない、ホークアイの優しい笑顔に彼…エドワードは困ったように笑った。
「大佐の奴が帰ってこい帰ってこいって五月蠅くて仕方がなくってさ」
「大佐はエドワード君の事、気に入っているから」
あんな奴に気に入られてもうれしくないとばかりにエドワードは顔を歪ませる。
明らかに嫌そうな顔をしていると、ガチャリと扉が開いた。
エドワードは反射的にそちらを振り返り、さらに苦い表情になる。
「げ、大佐…」
「君はいつになっても失礼な狗だな、躾直す必要がありそうだ」
「黙れ、それよりしつこく呼び出したんだからそれなりに何かあるんだろうな!」
エドワードはロイのことを軽く睨みつけた。
そんなエドワードには全く動じない。
ロイは胸ポケットからキーを取り出すと、エドワードに見せつけた。
人差し指にかけて、くるくると回す。
「ついてこい」
「…面倒くせぇ」
はあ、とため息を付くとエドワードはロイの後に続いて執務室を後にする。
目的地である古びた会議室に連れてこられて、エドワードは目を瞬かせた。
てっきり資料室か何かに連れてこられると思っていたからだ。
「何だよ、おもしろい資料はないのか?」
「まあ、そこにかけたまえよ」
訝しげに首を傾げながらも、エドワードはパイプ椅子に腰掛ける。
きょろきょろと辺りを見渡していると、ロイはエドワードの前に屈み込んだ。
エドワードは何事かと、眉をひそめる。
「何だよ…」
「そろそろ腰を落ち着かせてはどうかね?」
「またそれかよ…」
ため息混じりにそう呟くことしかできない。
なぜなら、最近ロイはそればかり言ってくるからだ。
エドワードとしては、賢者の石を探してあちこち旅をして回りたいというのに。
それに、ロイには旅することは了承済みだったのだ。
「私は君を側に置いておきたいのだがね」
「うるせーな、そんなつもりはないんだよ」
「やれやれ…」
そのせりふはこっちのものだと言いたい。
エドワードははあ、とため息をついた。
続く
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