二重像


「愛しているよ、エドワード」


そうささやく、彼の掠れた熱っぽい声が好きだった。







鼻にかかった甘い掠れた喘ぎが夜中の部屋に密やかにひびく。
それと混ざるようにすすり泣く声。
窓際にセットされ、月明かりに照らされたベッドの上に声の主がいた。
ベッドに真っ白な四肢を投げだし、金髪を乱して。
彼はきれいな金の瞳から静かに涙をこぼした。
下の可愛らしいものもそれに応じて先端から涙をこぼし、くちゅっと音を立てる。

「ふっ…アァ…」

ぴくりと腰を揺らし、軽く蜜をとばす。
それをみた少年は眉を寄せ、とても悲しそうな顔をした。
それから何か嫌なものを振り払うように手の動きを早める。
どんどんと先端を濡らすものが濃くなり、少年からあがる声も高くなる。

「ヤッアァッ、イク…イッ…あああぁっ!」

切なげに声をあげ、少年は達した。
ドロドロになった自らの掌を見、少年はある男の名前をつぶやく。


ロイ…


ロイとは少年の愛しい人だった。
再起不能だった彼に希望の光と焔をともし、そして人を愛する喜びを教えてくれたのはロイだった。
なのに。

「な…ッでだよ…」

彼に先ほど言われた言葉を思い出す。


「もうやめにしよう、エドワード」


何も言えず固まる少年…エドワードを置き、ロイはその場を立ち去った。
あんなに、あんなに好きと言い合い、愛し合ったのに。
あの、情事の際に耳元でささやかれる艶のある掠れ声を思い出す。

また。
また、熱いものがこみ上げる。
後ろの秘孔がうずいた。

「んっ、ふぁ…あっ」

先ほど放った蜜を後ろに塗り込み、くちくちとかき回す。
少しずつ、快感に慣れ、もっとほしいと言う。
彼の、太く長いものがほしい。
熱に浮かされたようにつぶやく。

「頂戴、ロイの…おち…ちん下さ…」

おねだりの言葉が口からでて気づく。

あぁ、彼はここにはいないのだと。

当たり前の存在になっていたことにも気づかされる。
エドワードの感情は一気に高ぶり、熱い思いが一気にあふれでた。

「た…さ、大佐……ロイッ!」

自分が発した声が静かすぎる部屋に響き、エドワードははっとした。
びくっとなったエドワードは一瞬体をこわばらせる。
するとドアがギィッ…と音を立てて開いた。
エドワードはとっさにシーツをたぐり寄せ、下半身を被い隠す。
こんな真夜中に誰だ、と警戒し、両手を合わせた時だった。
侵入者の顔が露わになる。

「…ッ、大佐…」

そこにいたのは紛れもなくかつて自分を愛した…否、もしかしたら愛したふりをしていただけかもしれない男がいた。

ロイは静かに扉を閉め、一歩ずつエドワードに歩み寄る。
なぜ、先ほど自分を突き放した男がいるのかと言うことに混乱した可哀想な少年は近づいてくる男から少しでも離れようとずりずりと壁際の隅っこまで後ずさった。
エドワードはついに逃げ場がなくなり、男はベッドに片膝をつく。
カクカクと恐怖にふるえるエドワードはロイの漆黒の瞳を直視できず、シーツに顔を埋め、全身で彼を拒絶した。

「嫌だっ、近づくな!」

それでもなお、近づく気配。
エドワードはそっと顔をあげた。
予想以上に近くにあるロイの瞳を気づかずに。

「───ッ!?」

ぶつかった視線。

「いやだっ!」

思いっきり左手でロイの肩を押し退けようとする。

が。

押し返す一歩手前でロイに捕まれた左手がギリッと痛んだ。
そのまま強引に壁に押さえつけられる。
いやがる少年を無理矢理壁に押さえつけたロイは彼の足の間に自らの足を割り込ませ身動きできないようにした。
さらに強い力でエドワードを押さえつけると足の間でつぶされた彼の性器が少し熱を持ち湿っていることを感じる。
それを知ったロイはわざとエドワードのソコをグリグリと刺激した。
それに気づいたエドワードはさらに混乱し、無茶苦茶に暴れ、泣き叫ぶ。

「アッ、イヤ、いやああぁあっっ!!」

真夜中にこの声はさすがにうるさい。
うるさい口はふさいでしまえとばかりにロイはエドワードがとっさにたぐり寄せていたシーツをはぎ、一部を破るとエドワードの口の中にねじ込んだ。

「ん゛ん゛ー!?」

そのまま足と手をひとくくりに縛られ、全くもって身動きがとれない格好にさせられる。
これでは趣味の悪い束縛プレイのようだ。
エドワードはぼろぼろを涙をこぼし、抵抗を続けた。
しかし、両手足が使えないこの状況でロイに抵抗できないことを悟ると諦めたように動くのをやめる。
それでもこれから自分がどうなるかという恐怖のためか、それとも悔しさのためかは分からないがひっきりなしに涙をこぼし、全身をふるわせた。
先ほどまでの鋭い目つきとはうって変わってその瞳は許しを請い、頼りなさげに揺れる。

「んんっ!?」

エドワードはロイのとった行動に喉奥から悲鳴をあげた。
先ほど自ら慰めたとはいえ、あまりほぐれていない後孔にロイが肉棒を突き入れたからだ。
ぎちぎちと悲鳴を上げているソコは何か裂けるような音を立て、鮮血が滴り落ちる。
皮肉なことにその鮮血を潤滑剤代わりにロイのペニスはエドワードの中にぴっちりと入れ込まれた。

「ふぐっ、うっ、んーっ!」

今までとても優しく抱かれてきたエドワードは強姦まがいに抱かれるのは初めてで。
本当に今自分に屈辱的行為を与えているのは本当はロイではないのではないかと思う。
そのとき、エドワードの口から先ほど押し込まれた布が落ちる。



「助けて、ロイ───…」



ロイの動きが止まる。
ロイはエドワードの頭を掴み、自分の方を向かせて言った。

「私がロイだよ、鋼の」
「い…っゃ、うそだっ!」
「私は嘘などつかない」

いやいやとかぶりをふり、エドワードはひっきりなしに愛しい恋人の名前を呼び続けた。

「ロイッ、ロイイィィ───ッ!」



パシンッ




「私が、ロイ、だ」
「違っ、違う…っ!」
「違わないよ」
「ロイは…もっと優し…ッ」

そう言ってエドワードはうつむいた。

「こんな、無理矢理、強姦みたいなんかしない…」

それに。

「ロイは俺のこと、嫌いになったんだろ?」
「嫌いにはなっていない」
「だったらさっき…なん、で…」
「さっき?なんだ?」
「もうやめにしようって言ったじゃないかッ!」

ロイは首を傾げた。
そのようなことをエドワードに言った覚えはない。

「私は君にそんなことは言っていない。」
「じゃあ何でこんなことすんだよ!さっきのは誰だよ!」
「君が私とした約束を破るからだ、今日の九時に執務室に来いと言っただろう!」
「んなの、後で宿にあんたから電話かかってきて八時に例のホテルのレストランに変更しただろうが!」
「…なに?」

ロイはさらに首を傾げた。
エドワードに予定変更の電話をしたのも、別れ話をしたのもまったく記憶にない。

「…話をしないか、エディ。私たちの話は全く噛み合っていない」
「…あぁ」

ロイはエドワードからいったん自らを引き抜き、拘束も解いた。
ロイは一言、すまないとエドワードに告げるとシーツをかけてやる。

「今の話を聞いていると私が二人いるようだな」
「俺に電話をかけてきたのと、別れ話をしたのが偽物…か」
「相手の特徴は?」
「いや、まったくあんただったよ」

どうみてもロイそのものだったのだ。

「なんで…」

エドワードがなにか言いかけたときどこからかくすくすと笑い声が聞こえた。
はっとし、ロイとエドワードは声のする方向…窓をみた。
月明かりのベランダに人影が見える。
声の持ち主は真っ青な軍服を着用しており、漆黒の髪の毛だった…

「あ〜、おもしろかった、実におもしろかったよ」
「ッ、誰だ、おまえは!」
「ロイ・マスタングだよ」
「私がロイ・マスタングだ。偽物めが」

ロイは発火布をはめると偽ロイに標的を定める。

「おっと、怖いねぇ…でもこの姿だと出来ない…だろ?」

そう言うと偽ロイはたちまち姿を変えた。

「なっ…!?」
「悪趣味だな、今度はエドワードか…」

そう、ロイはエドワードに姿を変えたのだ。

「本当の姿を見せろ、それともそれは恐ろしいか」
「はっ、何が怖いって?」

偽エドワードはそう言うと長髪黒髪の少年に変化した。

「なっ…おまえ、エンヴィー!」
「覚えててくれたんだ、おチビちゃん」
「知り合いなのか…?」
「こいつは…」

エドワードが説明しかけたとき…

「まっ、俺はもう帰るから」
「なっ、ちょっ…待て!」

エドワードが窓から身を乗り出したとき。
エンヴィーは忽然と姿を消してしまった……




「…っ、なんだったんだ?」

ロイはぽつりとつぶやいた…




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「つまり、奴はホムンクルスで最近君の前に現れるんだな?」
「あぁ」
「なぜそんな危険な人物と接触があったにも関わらず私に知らせなかった!?」
「…ごめ、ん…」

エドワードはしゅんっとなってうつむいた。

「とにかく私たち二人とも無事でよかった…」

そっとエドワードをロイは抱きしめる。
本当に、変な誤解をしたまま終わりにならなくてよかったと心底思う。
きっと自分たちの関係にひびを入れ、賢者の石により近づこうとするエドワードとアルフォンス、ロイを含む軍部の人間を遠ざけるためであろう。

「大丈夫だ、私たちの関係はこんな簡単なことで壊れたりしない」

ロイはそっとエドワードの額に口づけ、金髪の毛を一房手に取るとそっと口づけた。

「ひどいことをしてすまなかった、愛しているよ、エドワード」
「ロイ…俺も…好き、だ…」
「今日は疲れた、エンヴィーが現れることはもうないだろう。今日はゆっくり寝たまえ…」
「う、ん…」

瞼にそっと口づけるとエドワードをベッドに寝かしつけ部屋を後にする。

「おやすみ、エドワード…」




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ロイは宿から出、夜道を一人歩く。
しばらく行ったところでロイは足を止めた。

「でてこい、エンヴィー」
「あーら、気づいちゃったの、さすが焔の大佐さん」

ロイは一度瞼を伏せるとそっとあける。
胸ポケットから発火布を取り出し両手にはめるとエンヴィーに向かい…




そして





掲げた











愛する人を守るためには危険を顧みない。

男とはそう言うものである。






end



あきゅろす。
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