気づいて17




谷口の激励により、俺は古泉と共に会社を後にした。
気まずさから、俺は古泉より前を早足でせかせかと歩く。
自転車で来ていたので、それを押して帰ろうと思い、ポケットの中のキーを探った。

「だめです」

いきなり、ポケットをまさぐっていた手を引き出され、俺はばっと後ろを振り返る。
いつになく真剣な顔をした古泉にキーは奪われ、戸惑いを隠せない。
しかも、その手は古泉の指に絡め取られてしまい、ぎゅっと握りしめられた。
途端、頬が真っ赤に染まる。

「バッカ!や、めろっ!」

手を繋いだまま、強引に古泉は歩き出した。
こんな、公共の場で手を繋いで歩くなんて恥ずかしい。
例え女であっても恥ずかしいのに、男なのだから尚更だ。
ぎゅ、と握られた手のひらから伝わる体温を感じながら、俺は仕方がなく俯き加減で歩を進めた。

「なぁ、古泉…!」

少々強引に引きずられているようで、俺は非難の声を上げる。
しかし、ずんずんと歩く古泉はなにも言ってくれない。
なんだか分からなくて、どうしようかと眉を下げると、古泉が大通りで立ち止まった。
何かアクションがあるのかと、不安げに見上げると、彼は大きく手を挙げる。
すると、後方からやってきたタクシーが静かに止まった。

いつもは電車通勤なのに、なぜタクシーなんだ。

タクシーに押し込まれながらそんなことを思う。
しかし、余裕のなさそうな古泉の顔を見てすぐに分かった。

(早く、帰りたいんだ)

なんだか、胸がぎゅっとなり、切ない。
それは悲しいとか、辛いとかの切なさではなく。
確実に、嬉しいからだ。
早く二人きりに、なりたいからだ。
俺だって、早く二人きりになってしまいたい。

暖かい手のひらをぎゅう、と握り返すと古泉がこちらをちらりと見る気配を感じる。
しかし、敢えてそれを気づかない振りをして、俺は窓の外に目を向けた。






やがてタクシーはマンションの前に止まった。
古泉は三千円運転手に渡すと、釣りはいらないとタクシーを降りる。
俺もその後に続くように降りると、ぐいぐいと引っ張られながらエレベーターに乗り込んだ。
妙に緊張して、心拍数があがる。
心臓が破裂して、死ぬかもしれない。

「こ、いずみ…」

そう口を開けば、タイミング悪くエレベーターが止まり、扉が開く。
相変わらず、古泉は口をきいてくれず、家の前まで無言で連れてこられた。
かちゃかちゃと鍵を開け、真っ暗な玄関に入ると、突然後ろから抱きすくめられる。
後ろ手に鍵を閉める音に、眩暈がした。

「こ、こいず…んっ!」

振り返ったところを不意打ちで口付けられて、体が竦む。
強ばった体は抵抗なんかできなくて、そのまま抱き上げられてしまった。









続く


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