気づいて15
俺を止めた古泉の顔が怖い。
見たくない。
どうして、止めるんだ。
「どうして、どうして…!」
そう言って掴みかかろうとしたとき。
ドンッ───!
古泉にぴったりくっついていた上司の体が後方に倒れた。
驚いて俺は尻餅をついた女上司と古泉の顔を呆然と交互に見比べる。
「申し訳ありません、課長」
「こ、いずみくん?」
「僕のことを罵るのなら全く構わないのですが、僕のお嫁さんを罵られるのは我慢できませんでした」
古泉は女上司ににっこり微笑みかけた。
その微笑みは俺だってぞくりとするくらい、恐ろしいもので。
こんな古泉、滅多にお目にかかれない。
絶対に、怒っている。
なにをするか分からないくらい、怒気を感じて俺は古泉を引き留めた。
ぎゅ、と腕を掴んで引き寄せる。
はっとして、戸惑ったかのような顔で古泉は俺を見下ろした。
そんな古泉を俺より後ろに引き下げると、俺は未だへたり込んだ女上司の前に立ちはだかる。
「何度も言うけど、古泉は俺の旦那なんだ…」
「五月蠅いわね!さっさとこの子、引きずり出しなさいよ!」
金切り声で女上司は野次馬と化しているギャラリーに叫んだ。
しかし誰も、なにも言わずに冷たく見下ろして。
「あんたも、古泉が好きなんだよな?古泉がほしいんだよな?」
でも、悪いんだけど。
「俺にも古泉が必要なんだ…いないと、死んじゃうくらい苦しいんだ」
だから渡せない。
「俺なんて、男だし、子どもだって作ってやれないし、全然素直じゃなくて可愛くないし、でも古泉の事、誰よりも、大好きで…っ!」
「もういいですから…」
ぐずぐずと泣き続ける俺をぎゅ、と古泉は抱きしめてくれた。
俺はもう耐えきれなくて、古泉に抱きつく。
怖かった、取られるんじゃないかと思って怖かった。
周りに人がいることさえ忘れて、俺は古泉に愛を叫んだ。
「大好きなんだ、愛してるから…!もっと素直になるから、だから嫌いにならないでくれ…!」
「僕があなたを嫌いになるわけ、ありませんよ…!」
古泉の暖かい胸に抱かれて、俺はたまらなく幸せな気持ちに浸る。
ああもう、このまま死んでもいい。
そんなことを思いながら、古泉に口づけた。
古泉は驚いたように肩を竦ませたが、すぐに俺を受け入れてくれる。
「んふっ、ん、あ…」
「愛してます…」
ぎゅ、と抱きすくめられて俺も古泉の肩口に顔を埋めた。
と、そこでいきなりぱちぱちとよく分からない音が聞こえてきた。
何事かと思えば、古泉の肩の向こうににやにやしながら両手を打ち鳴らす谷口の顔が見える。
「あ、ああぁあ…!」
俺は恥ずかしさからその場にしゃがみ込んだ。
続く
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