気づいて14



古泉は俺の、俺だけのものなんだ。
誰にも渡さないし、誰にもなびかないくらい夢中にさせてみせるから。

「第一あんた、男の癖して古泉君をたぶらかして!恥ずかしくないの?」
「そう言うお前こそ、家庭持ちをたぶらかして恥ずかしくないのか!」
「五月蠅いわね!あんたより、私の方が魅力的に決まってるじゃない!」

憤慨した女上司は俺の目の前までかつかつと迫ってきて。
思い切り睨み上げられたが、俺だって負けられない。
負けたくない。
古泉にとっての唯一は、俺だけなんだ。
そう、伝えたくてもうまく言葉にできなくて。
売り言葉に買い言葉的な、くだらないやりとりしか続かない。

「結婚の楽しみを古泉君に味あわせてあげられない癖して」
「何がだよ!」
「子どもよ!古泉君だって、愛する人との愛の結晶が欲しいに決まってるでしょ!」

その言葉にドキッとした。
頭から冷水をぶっかけられたような感覚。
熱くなっていた体が一気に冷えていく。
結婚した時から、いや、付き合い始めた頃から一番気にしていた事。
気にしていたけど、決して俺は口に出さなかったし、俺が気にしていることをなんとなく感じていた古泉も優しいから何も言わなかった。
だから、この忌々しい気持ちには蓋をして過ごしてきたのだ。
なのに、今それを蒸し返される。
古泉が動きそうな気配を感じた俺は、ばっと古泉の行く手を阻むように腕をつきだした。
古泉に何か言わせちゃいけない。
だって、上司だから。

「確かに子どもは出来ないさ」

ぽつり、とそう呟いた。
きしきしと心が痛む音が聞こえる。

「俺だって、出来ることならそうしてやりたいし、一時はそれを理由に別れることも考えた」
「だったらさっさと古泉君を自由にしてあげなさいよ!醜い男ね!」
「でも、でも…」

じわり、と涙が滲み出す。
こんな女の前じゃ泣きたくないから、必死に堪えて。
一度落ち着こうと大きく息を吸い込み、そして吐き出した。
きり、と女上司を視界に収めると、俺は口を開く。

「俺が一番好きなのは一樹だ!一樹が一番好きなのも俺だ!」
「何よっ、勘違いも甚だしいわ!この束縛男!嫌われるだけよ!」
「一樹には俺だけなんだ!子どもがいなくたって、その分たくさん、たくさん愛せるのは俺だけだ…!」
「そんなの妄言よ!いつか気持ちは変わるに決まってるでしょ!」

そんな、気持ちが変わるなんて。
そんなの、そんなの俺にはあり得ない。

「俺の気持ちは絶対だ!俺たちの関係が終わるのは、一樹の気持ちが変わったときだけで…!」
「じゃあさっさと心変わりしてくれないかしらね、古泉君が!」
「でもっ、俺…!一樹がずっと愛してくれるように、」
「無駄な努力よ」

乱暴に言い捨てると、女上司は俺の前を通り過ぎ、古泉の腕に自分の腕を巻き付けた。
それに頭の中が真っ白になる。
目頭が急激に熱くなって、ぼろりと涙が溢れた。
絶対に泣きたくないと思っていたのに、なんて俺は弱いのだろう。

「やだ、やめろ…」
「早く自分の愚かさに気づきなさい」

残酷な笑顔でそう言い放たれて、俺はもう訳が分からず女を突き飛ばそうとした。
しかし、それは叶わない。
古泉がそれを止めたから。










続く


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