気づいて12



谷口の話を俺は唖然として聞いていた。
明らかな権力行使の実態に目の前が真っ暗になる。
残業押しつけて一緒にいようとしていたとか、わざとベタベタまとわりついていたとか。
さらには出張に一緒に行こうと企てられていたという話も聞いた。

『古泉は優しすぎるから嫌、と言えないんだよな。とにかくお前のことを思って、一生懸命早めに帰れるように仕事を片づけてたよ』
「そんなの、知らなかった…!」
『つまりはお互い言葉足りずのすれ違いだな、さっさと誤解解きやがれ』

やれやれ、というようにため息が聞こえる。
俺はとにかく古泉が役所にだけは行かなければいいと思い、谷口に頼みごとをした。

「古泉引き留めておけ!」
『は?』
「今すぐそっち行くから、古泉を会社から出すな!」

なにやら向こうでわーわー言う声が聞こえたが気にしない。
無視して通話終了をし、急いで着替えて家を飛び出す。
体は相変わらずぎしぎしと痛んだが、そんなのお構いなしに俺は自転車に飛び乗った。
腰に響いてたまらなく痛かったし、まだ違和感の残る後孔はじっとり湿ってはいたけれど。
構いはしない、早く逢いたい。
俺は必死に自転車をこいだ。













ようやくたどり着いた大きなビルディングの前に無造作に自転車を放置すると、俺はエントランスに駆け込む。
エレベーターに乗り込んでボタンを押して。
もちろん、『閉』ボタンは連打だ。
こんなに息が上がったのはいつぶりだろうとうっすら考えながら点滅するライトを眺める。

(早く、早く…!)

やがてチンッ、と軽い音を立てて扉が開いた。
それと同時に俺は古泉の部署めがけて走り出す。
好奇の目線で見られたり、すれ違うとき微かに「あ、古泉のお嫁さんだ」という声も聞こえた。
それでも構わないから、俺は必死に走り、古泉の部署に走り込んだ。

「すみません、古泉…」
「お!古泉のお嫁さん」
「古泉ー嫁さんきてるぞ!」

誰だか知らない奴が大声で叫ぶ。
それに伴って、弾かれるようにこちらをみた男が一人。

「ど、したんですか…」
「やっぱり、離れるのは嫌、一緒が良い」

ずかずか歩み寄っていきながら俺ははっきりとした声で言った。
迷いなんか無い、一緒にいたい。
ただそれだけ。
古泉のデスクの前に立つと、その上には今朝食卓机の上から消えていた紙切れが。
俺はそれを取り上げるとびりびりに破り捨てた。
呆然と俺を見ている古泉の顔が、険しいものに変わる。

「何なんですかあなたは!どういうつもり、」
「お前こそ何なんだ!何で俺に嫌がらせ受けてるって言わないんだ!」
「…ッ、それは…」

古泉はなぜそれを知っている、とばかりに表情を歪ませた。












続く


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