気づいて11



必死になって通話ボタンを押す。
数度呼び出し音がなった後、暢気な声がした。

『ほいほ〜い、何だキョン』
「谷口!古泉まだいるか!あいつ何時に出社した!?」
『あぁ!?何だよお前、まだ古泉って呼んでるのか?』
「うるさいっ!さっさと答えろ!」

凄い勢いで噛みつくように言うと、谷口が困ったように声を上げる。
何なんだよ、と理由を問うてくるのに答える余裕なんてない。
どうでも良いからさっさと答えろ!と怒鳴りつけると、谷口はしょげたような声を出す。

『…古泉はまだいるよ、帰り支度は始めてるけど』
「出社時間!」
『いつも通り、定刻出勤だよ』

その答えに胸をなで下ろす。
俺は先回りして市役所前にでもいようかと頭を働かせていると。
谷口が勝手に話し始める。

『お前ら最近、二人の時間無いだろ?大丈夫か?』

何でそんなこと知ってんだ。
どこからともなくじわりと涙が滲んでしまって、俺は鼻水をすすり上げる。
それに驚いた谷口は焦ったように電話口でどうにか弁解しようとあわあわ何か口走った。
しかし、「古泉はお前のことが大好きだよ」とか、「いや、お前らのことだから大丈夫だろ、な?」なんて、今の俺には逆効果なことばかり喋りやがる。
この役立たずめ、少しは何か良いこと言え!

『何かあったのかよ…古泉も朝から暗いしよぉ…』
「もうだめなんだ、終わりにするん、だ…!」
『はぁ!?』

素っ頓狂な声が向こうから返ってきて、俺はぎゅう、と唇をかみしめた。
こんなこと言う日が来るなんて、情けない。
情けないし、悲しいし、惨めな気持ちにまでなってしまって俺は堪えきれずしゃくりあげた。

「だっ、て!ッ、古泉他に女の人、いて…!」
『嘘だろう?だってあいつ、最近上司の嫌がらせで退社もマジで遅くて、仕事おわったらすぐにお前んところ帰ってたぞ?』
「嘘だ!いつも、ローズ系のあまーい匂いさせながら帰ってきて!俺には構ってくれな…っう、ふぇ…」

止まらなくなった涙が顎のラインを伝ってポタポタ床に落ちる。
拭っても拭っても追いつかなくて、俺は子どものように泣きじゃくった。
今の自分の悲劇を、自ら言葉にしてみてさらに情けなくなる。
もう、いっそのことハルヒの神パワーが復活して、俺の記憶とか感情とかを消失させてくれればいいのに。

『…おーいキョン、はやまるな』
「なに、がだよ…」
『お前、古泉から何も聞いてないのかよ』

急に呆れたかのような谷口の声が電話口で鳴り響く。
どういうことかと尋ねる前に、谷口は自分から口を開いた。








『古泉はな、パワハラ受けてんだよ、そのローズ系のあまーい匂いさせてる女上司からさ』
「…え?」











続く


あきゅろす。
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