気づいて10



なんだかふわふわする。
寝ているようで、起きているようで。
ああ、これはきっと夢なんだろうなと思った。
ゆるりと頭を上げると古泉が扉を開けて、出て行こうとしていて。
仕事行くんだ、と思ったとき、そういえばと思い出す。

「…も、仕事?」

そう声をかけると、古泉は振り返った。
なぜだか顔は全く見えない。
それでも、古泉だってことはよく分かってたから俺は手招きしながら声をかけた。

「ね、古泉…忘れ物…」

ゆっくり、ゆっくりとなぜか戸惑うように影は近づいてくる。
まどろっこしいな、早く来いよ。
もっと近く、ほら、もっと近くにこないとできないだろう?
早く、早くと急かせば顔が近づいてきた。
ふわり、と大好きな古泉の匂いがする(気がした)
ネクタイをぎゅ、と引っ張って顔を引き寄せて。

「ん、ふ…」

少しだけかさついた唇に触れる。
その唇をぺろりと舐めると。

「へへっ、いってらっしゃいの、きすー…」

へにょ、と笑うと古泉は肩を揺らす。
何驚いてるんだ。
俺だって、たまには素直になって可愛いことしたっていいだろう?
だってお前、そっちの方が好きなんじゃないか?
そっちの方が、もっと好きって、愛してるって言ってくれるんだろう?

「いってら、しゃ、い…」

いきなり、意識が薄れ始めた。
夢なのにおかしいな、夢で意識が薄れるとか聞いたことないぞ。
それでも意識が遠のいて、俺はぼんやりとする視界の端で古泉の顔を捕らえるので精一杯だった。


(何で、そんな泣きそうに笑ってるんだ?)















寒さで目が覚めた。
ぶるり、と体が震えて俺は重たい瞼をあける。
しかし、いつもより半分しか目が開かない。
あ、そっか、泣いたんだっけ…
むくり、と起きあがると体が軋むほど痛んだ。
緩慢な動きであたりをぐるりと見渡す。
ぐちゃぐちゃになったシーツに、引き裂かれた上着。
べったりと精液のこびりついたそれらを冷たく見下ろした。
頭は驚くほど冷静で、シャワーを浴びなければと体を起こす。
むち打って立ち上がった足に、冷たい液体が流れ落ちた。
どろり、とその液体は床にまでたどり着き、白い水たまりを作る。
それを見た途端、ぶわっと涙があふれ出して。

「いや、だぁ…!」

さっき見た夢が思い出されて、胸がぎゅっとなった。
本当は一緒がいい。
もっと、ずっと一緒にいたいんだ。
今まで以上にちゃんと、好きって言うから。
愛してる、は恥ずかしくて言えないかもしれないけど。

それでも素直に好きを伝えるから、だからそばにいて。
ちょっとでも良いから、俺を愛して。

俺、それ以上にお前のこと愛してやるから。
だから、だからどうか…!




そのとき気づいた。





古泉はどこだ?





無我夢中でリビングに走った。
机の上に離婚届はない。
一気に血の気が引く。
時計を見れば、すでに夕方六時ちょっと前だ。
古泉の退社時間は、残業がなければ六時のはず。


嫌だ嫌だ嫌だ…!




必死になって携帯電話をたぐり寄せ、電話帳を開いた。










続く


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