気づいて3.5
一睡も出来なかった僕は、ぼんやりと満員電車に揺られていた。
今朝の彼の疲れ切ったかのような顔が思い出される。
朝食も、行ってきますの一言も口に出来なかった。
なんと情けないことだろう。
でも、きっと彼の方が痛かったはずだ。
どう彼に説明しようか。
僕が一番愛していて、一番想っているのはあなただと言うことを。
そんなことを思っていると、あっと言う間に会社に着いた。
タイムカードを押していると谷口君に声をかけられる。
「おいおい古泉…おまえ、えっらい厄介なババアに目、付けられたんだな」
「え?」
「俺がおまえの代わりに行ったらさ、すっげぇ剣幕で怒んの、何で古泉君じゃないの!ってさ」
「すみません…ご迷惑おかけして…」
申し訳ない気持ちで僕は頭を下げた。
すると谷口君は眉を下げて笑って。
「気にすんなって!それよりおまえたちの方が俺は心配だよ」
絶対今日から帰らせてもらえねぇよ、などと言う声を僕はどこか遠くで聞いていた。
案の定、僕は上司からの嫌がらせで定刻をかなりすぎた時間で帰宅するのが常になっていた。
もちろんのことながら、彼との距離は開いていくばかり。
彼との触れ合いがなくなるにつれ、焦りと苛立ちが募る。
さらには仕事場での嫌がらせ、帰宅できない。
どんどんと彼との距離は開いていって、一緒に住んでいるのに、一緒に生活している感じがしなかった。
柄にもなく苛々する毎日。
そんな中で、最低な事件が起きた。
「もうやめにしよう」
彼のそんな提案に僕は机を叩いて怒鳴っていた。
怒鳴ったことなんて、生まれてこの方片手で数えるくらいだ。
それ位、頭にきていたのである。
僕の苛々をぶつけるように、無理矢理手を引いて寝室に押し込んだ。
彼は戸惑ったように視線を行ったりきたりさせていて。
可愛い彼を暴いて、無茶苦茶にしてやりたい。
そんな残虐な思いで心の中がいっぱいになった。
「いやだっ、古泉…!」
暴れる彼にまた苛々する、五月蠅い。
何で僕の思うように事が進まないんだ!
何も悪いことはしていないのに、何ですべて僕に降りかかる!?
咄嗟に手がでた。
乾いた音と共に彼の頬が赤く熱を持つ。
最愛の人に手をあげてしまったという後悔よりも、自分が彼をねじ伏せているという事実に興奮する。
そうなるともう、止まらなかった。
「これ以上、一緒にいたら苦しくて死んじゃう…!」
そう言った彼の頬をもう一度叩いて。
ふざけるな、僕がどんな気持ちでいるかも知りもしないで…!
嫌がる彼をねじ伏せる悦びに、僕は恍惚とする。
嫌な気持ちとは裏腹に、どんどんと快楽に溺れていく彼を思い切り揺さぶりながら。
僕は口角をつり上げた。
そんな僕が、彼の瞳にどう映ったかなんて、分からない。
ただ、彼が一際大きな声で悲鳴をあげたとき。
僕はぐったりと横たわる彼を見て、真っ黒な感情が流れていくのを感じていた。
続く
後に残ったのは、真っ青な後悔
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