気づいて5



古泉は驚いて俺の顔を見つめている。
嗚呼、居たたまれない。
恥ずかしさを隠すように古泉の首に腕を回して抱きつく。
本当に、寂しくてたまらなかったんだ。
ずっと触って、撫でて、優しくして欲しかった。

「えっち、したかったよ…」
「そう、ですか…」

その返答に俺は落胆した。
なぜかって?

「僕もです」という返答が得られなかったからだ。

古泉は違うんだ、別に俺としなくても平気だったんだ。
ほしかったのは俺ばっかりで。
あんなに隣で我慢していたのも、我慢できずに自慰に耽ってしまっていたのも俺だけ。
やっぱり俺だけ必死だったのだ。


ぼろり、と涙があふれた。


















「やっぱ、やめよう」
「…え?」

驚く古泉の腕からするり、とすり抜ける。
俺の腕を掴んで引き留めようとするのを振り払って。

「キョンくんっ!」
「うるさい!ついてくんな!」

思いっきりどなりつけると、俺は寝室から飛び出した。
涙がぼろぼろあふれ出してきて、足下がよく見えない。
ふらふらと風呂場に逃げ込むと、俺は声を出して泣いた。
馬鹿じゃないかというくらい、情けない声を上げて。

「バカッ、古泉の、ばかぁ…!」

何で追いかけてこないんだ。
何で今すぐ抱きしめてくれないんだ。
何で、何で好きっていってくれないんだ…!




苦しいよ苦しいよ苦しいよ苦しいよ苦しいよ…!



やっぱり、あの匂いのお姉さんが好きなんだ。
怖い、怖くてたまらない。

離れたくない、捨てられなくなんかないよ…っ!

こんなにも、好きなのに…









結局古泉が俺を追いかけてきてくれることはなく、俺は一睡もできずにリビングのソファーに横たわっていた。
それでも、古泉は仕事に行くのだ。
朝食の準備だけはしなきゃ、とトーストを焼いて、野菜をちぎってサラダにして、それから簡単なスープを作る。
準備が整ったあたりで古泉も出てきた、こいつも眠れなかったのだろう。
腫れた目で、仕事に行く格好をして出てきた。
一言も言葉は交わさず、リビングを横切り、玄関に続く扉に消える。

朝ご飯は、だなんて聞けなかった。

いつもは玄関まで見送りに行くけれど、今日は行けない。
玄関に続くドアから遠くの古泉を見つめる。
靴を履いた背中に向かって、小さい声で呟く。

「行ってらっしゃい…」




返事はなく、静かに扉は閉まった。













続く


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