気づいて1.5



最近二人の時間がない。
それはすべて二ヶ月前に別の支社から転勤して来た上司のせいだ。



三十路のその上司は露出好きの派手な女だった。
入社してくるなり目を付けられた僕は、妙にべたべたされたり、仕事を押しつけられたりする。
それは、僕が入籍していることを知ってからさらに激しさを増した。
はっきり言って迷惑なのだが、上司にそんなこと言えるはずもない。
今日も無理矢理残業させられた僕は、上司に言い寄られていた。

「ねぇ古泉君、あなたの奥さんと私、どっちが可愛い?」
「課長もお綺麗な方ですが、僕は奥さんを愛しています」
「そう?でも、私の魅力が分かればあなたは私のこと、愛してくれそう」
「生憎ですが、僕は家で待ってくれている人の方が愛おしい」
「んもう、つれないわねぇ」

甘い匂いをぷんぷんさせながら言い寄られるだなんて、はっきり言って気持ち悪い。
こうやって仕事を押しつけて二人きりになる時間を増やそうとするのも許せなかった。
早く帰ってキョン君に逢いたいのに。
この女の匂いではなく、彼の柔らかくて暖かい匂いを胸一杯に吸い込みたい。














「寂しい思いをさせてしまってすみません」

最近笑顔を見せることが少なくなってきた彼。
そう言えば、彼の声さえもあまり聞いていないことに僕は愕然とした。
その思いから来た、懺悔の言葉。
本当はいつだって一緒にいたいくらい大好きなのに。
それさえ叶わないのが情けない。


せめて、少しでも早く帰ることが出来たらよいのに。
そう思っていた僕の所に朗報が届いた。

「課長が出張…?」
「ああ、二泊三日で札幌に」

同期で、元からキョン君の親友の谷口君にそう聞かされる。
これはチャンスかも知れない。

キョン君と、少しでも一緒にいられる…

「でもあいつ、おまえも連れてこうとしてるらしいぜ」
「…え?」

それに落胆を隠せない。
どうやら同行させる部下を一人選べるようで。
それで、僕を選んできたようだ。
肩を落とす僕に、谷口君はにかっと笑う。

「お前、最近キョンを構ってやってないだろう」
「…恥ずかしながら」
「じゃあ、俺が代わってやる」
「いいんですか!?」
「もちろん!元気なさそうなキョンってのも気味悪いし、ちょっとは相手してやってくれ」

もちろん夜の相手もな、とにたりと笑った彼を小突きながらも、僕は感謝の気持ちでいっぱいになっていた。








続く


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