気づいて3



「今日は久しぶりに早く帰れそうです」
「…え?」
「夕ご飯、作って待ってて下さいますか?」

古泉は嬉しそうに笑って俺を抱きしめた。
そこからは古泉の匂いしかしなくて、俺は胸に顔を埋めて思いっきりそれを吸い込んだ。
忘れかけていたその匂い。
こんなにも安心できるだなんて。

「分かった、気をつけて行ってこいよ」

久しぶりに作り笑顔でない笑みを浮かべて俺はいってらっしゃいのキスをした。










約束通り、古泉は夕方には帰ってきてくれた。
張り切った俺はシチューを作って古泉を迎える。

「こういう時間が久し振りで…とても嬉しいです」
「俺も、嬉しい…」

ぱくり、とスプーンを口に入れながらそう呟くと、古泉の動作が止まる。
何か変なことを言ってしまったかと顔をゆがめると、古泉はクスリと笑って。

「あなたがそんなこと言うだなんて珍しい」

笑いながらも、どこか嬉しそうなそれに俺まで笑顔になる。
ああ、やっぱり大好きだなぁだなんて思って幸せな気分になった。


もちろん、古泉のワイシャツから嫌な匂いがすることもなく。


それから、三日間続けて古泉は嫌な匂いをさせることなく、早めに帰ってきてくれた。















「すみません、明日からまた帰りが遅くなりそうです」

俺が一生懸命一から作った手作りハンバーグをむさぼりながらそんなこと言うな。
出来合いじゃないんだぞ、玉葱をキャラメル色になるまでじっくり炒めて、つめったい牛ミンチと混ぜ合わせて、愛情込めて作ってやったのに。
そんな、そんな切ないこと言うなって。

「上司が出張から帰ってくるので…」

本当だったら僕も付いていくはずだったのですが、と苦笑いをして古泉は付け合わせのポテトを口に含んだ。

「あなたと一緒にいたかったから、断ったんです」

にっこり笑ってそう言われたら「そうなんだ」と思わざるを得ない。
一緒にいたいって思ってもらえていただなんて、喜ぶなと言われる方が難しい。
それが、大好きな相手なら尚更だ。
明日からのことの不安ももちろんあったけど、それを不安がって今の幸せな気持ちを無駄にしたくない。

「そうだったんだ」
「はい」
「ちょっと、う、ぅ…嬉しいかも…」

そう言うとまた古泉は嬉しげに笑って。

「今日はどうしたんですか」

いつものあなたじゃないみたいだ。

「とても可愛いです」

と歯の浮くような台詞を俺になげかけた。











続く


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