気づいて2



結局俺が寝付いてから古泉は帰宅していたらしい。
目覚めた俺は隣で眠る古泉の寝顔をじっと見つめる。
少し飲んだのだろうか。
疲れきって深い眠りについている古泉の寝顔から視線を外し、俺はベッドから這いだした。
時計はまだ深夜三時を指している。
まだ起きるには早いけど、どうしても体が熱くて仕方がないのだ。

(三週間くらい、エッチしてないから…)

深くため息をついて、俺はトイレに忍び込む。
便器の前に座り込むと、ズボンと下着を引きずり降ろして自らを握り込んだ。
すでに勃起しているペニスを上下にしごいてやる。
そうすれば快楽が背筋を駆け抜けて、気持ちが良くて仕方がない。
久しぶりの自慰で我慢がきかない俺は性急に自らを追いつめる。

「あっ、は…んやぁあ…!」

ペニスがどくどくと脈打ち、先走りがドロリと溢れ出してきて。
たまらなくなって俺はふらふらと立ち上がると便器にもたれ掛かった。
いつ吐精してしまってもいいように、用を足すときのようにペニスを便器に向ける。
ぐりぐりと先端の弱い部分を円を描くようになぞればもう、我慢など出来なくて。

「嫌っ!い、くぅ…!いつ、きぃ…!」

体中に快楽が走り抜ける。
パタタ、と音を立てて精液が便器にこびりついた。
しばらく呆然とそれを見やる。

(本当は、古泉にさわって欲しいのに)

(古泉は俺にさわりたくないのかな)

(毎晩隣で寝てるのに、何もしてこないで)

(半年前が、懐かしいな…)


そう思って頭を振った。
だめだ、泣きそうだ。
俺はトイレの水を流すと脱衣所に向かう。
今日は、嫌な匂いがしませんように。
そう願いながら。






しかし、その願いはあっと言う間に裏切られて、俺はワイシャツ片手に立ち尽くしていた。
なんだか、涙も出てこない。
会社にきれいな女の人がいるんだろう。
古泉だって、相当な美形だから俺にはもったいないくらいだったのに。
きれいな女の人と古泉を想像して並べてみた。

(お似合い、だよなぁ…)
ぎゅう、とワイシャツを握るとまた黒いビニール袋に投げ入れて。
嗚呼、袋の中もいっぱいになってきたなだなんて思いながら。
痛む胸を抱えながら、古泉の隣に戻ることなんか出来やしない。

結局ソファで横になっていた俺は古泉に揺すられるまで目が覚めなかった。





「どうなさったんですか、こんなところで」
「ん、ふぁ…」

欠伸を一つしながら、俺は時計を探した。
今は何時だろう。

「ッ、七時…!」

古泉が出勤する時間だ。
俺は慌てて飛び起きると寝ぼけたままエプロンをひっつかみ、朝食作りを始めようとする。
しかし、すぐに古泉に止められた。

「もう頂いたので大丈夫ですよ」

ご丁寧に俺の分までラップがかかって置いてある。

古泉にいらないことをさせてしまった。
呆れられて、見捨てられるかも知れないという恐怖が全身を駆け抜ける。
でも、そんな姿見せれない。
強くなくちゃ、強く、強く。




「ごめんな、忙しいのに」




そう言って、ぎこちない笑みを向けるだけで精一杯だった。







続く


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