頭痛と涙と、


※酷い古泉注意







ぼんやりと天井を見上げる。

最近冷え込んできたせいか、俺は見事に風邪を引いていた。
頭はガンガン痛いし、喉も腫れて声が掠れる。
熱が上がるだけで、自分はこんなに弱くなるのかと思って落胆した。
嗚呼、忌々しい。
そんなことを考えていると、不意にコンコン、と扉を叩く音。
廊下からは妹が「キョンくーん、お客さんだよ!」と叫んでいる。
俺はなんだか良いような、悪いような、とにかく変な予感に襲われて身を固めた。

「お邪魔します」

そう言って入ってきた人物はやはり、予想通りで。
俺はなぜこいつは俺のところにわざわざ会いに来たのか考えていた。
もしかして、俺のこと、心配して自ら会いに来てくれたとか?
ハルヒからの、命令という可能性も高い。
やっぱり後者かな、と少し落胆していると、古泉はさらに俺を落胆させるような台詞を吐きやがった。

「弱ったあなたを笑いに来ただけです」

にっこり笑って俺を見下ろし、言い放つ。
痛む頭が、さらに鈍く痛み始めた。

そうだった、この古泉と言う男は俺のことが大嫌いなんだ。
心配して会いに来てくれるわけも、ハルヒに言われて会いに来るわけもない。
ハルヒに言われても、きっと用件と俺の容態だけを妹だか母さんだかに聞いて帰ってしまうだろう。

「ふふ、がっかりしましたか?」

落胆した俺の顔を見て、古泉は嬉しそうに笑った。
俺なんて、ショックで心がじくじく痛むのに、ふざけやがって。
それでも怒れないのは、きっと俺が古泉のことが好きだからだ。
きゅ、と唇を噛みしめて、俺はここに古泉がいることを喜ぶことにした。
どんなことでもプラス思考だ。
じゃないとやっていけない。
じゃないと心が壊れてしまう。

ぼんやりと大好きな顔を見上げて、それだけ喜ぼうとした。
古泉がそこにいる、今日一日会えないと思っていたのに俺の目の前にいる。
少しだけ、嬉しくなって俺はかすかに微笑んだ。
古泉はそんな俺を不思議なものを見るように見つめている。
俺は、急激に古泉に触りたくなった。
触れて欲しい、あなたの体温を感じたい。
ただそれだけで、俺はだるくて持ち上がらない腕を無理矢理古泉に延ばすと、お願いをした。

「古泉…一分だけ、手、握ってもいい?」
「だめです」
「じゃあ、三十秒」
「だめです」
「…十秒」
「嫌です」
「じゃあ一瞬ぎゅっ、てするだけでも…」
「あなたに触りたくもない」

にこり、と笑って古泉は残酷にそう言い放った。
差し出した腕は力が抜けて、乾いたシーツの上にとさりと落ちる。
古泉はさも嬉しそうに笑うときびすを返した。

待って、行かないで。

無理矢理体を叩き起こして古泉を追いかけようとする。
しかし、起きあがった俺を冷たく睨みつけた古泉の視線に俺は固まった。

「熱も高いのに無理矢理そんなことして、そんなに僕が好きですか?」
「…───ッ!」

じわり、と眦に涙が滲んだ。
どうしようか、情けない顔して泣く俺が一番嫌いなんだ、コイツは。
ぐい、と目元をパジャマの袖で拭った。
見られないように、隠して。
すると、古泉がため息をつきながら近づいてくる。
ああ、どうしよう、殴られるかもしれない。
ぎゅ、と目を瞑り、歯を食いしばった。
しかし、いつまでたっても衝撃は訪れない。
恐る恐る目を開ければ、古泉は呆れたように俺を見つめている。
怯えた俺を見て古泉はもう一度深くため息をついた。

「さっさと寝て治して下さい」
「ぁ…」

とん、と胸を押されて俺はぽすんとベッドに沈んだ。
俺は涙で濡れた目を何度も瞬きをさせて、古泉を見つめる。
古泉は珍しく、調子が狂ったかのように頭に手を当てて。

「いつものあなたじゃないと、どうも調子が狂う…」
「なんだそれ」

ははっ、と俺は弱々しく笑った。
古泉は俺の上に布団を掛けて、ベッドサイドに腰掛ける。

「どうしたら、寝てくれますか」

俺は目を丸くして、古泉の背中を見つめた。
どうしよう、古泉が俺のために何かをしてくれるらしい。
嬉しくて嬉しくて、切なくて。
俺は、くしゃりと顔を歪めるとベッドに手を付いている古泉の手のひらに自分の手のひらも重ねて。

「…手、ぎゅっとしてくれたら」

そうしたら。

「すぐに、元気になるから」
「そう、ですか」

ぎゅ、と握り返してくれるその手の温かさに涙が一筋流れ落ちた。








end












結局古泉はキョンのことをどう思っているのか分からない罠。
ご想像にお任せ。


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