悲壮美-tragic beauty- 9


「お前だって媚薬、知ってるだろ?エッチな気分になるって言うやつだ」
「し、ってます…」

困ったように眉を下げて古泉は俺を見つめてきた。
戸惑うかのように視線は俺の下半身やらリンゴにやら向けられていて。
そんな姿に俺は笑みがこぼれた。
だって彼の決心は早くも揺らぎかけているのだ。
ほら、早く俺の元から去れ。

「変態の仲間入り、したくないだろ?だったら今、潔く帰るんだな」

じゃないと俺は今すぐにでも慰めたくて仕方がないような状況なんだ。
俺は古泉の胸元をとん、と軽く押す。
ひざまずいていた彼は情けなく尻餅をついて。

ああ、やっぱりお前も失格だ
早く出ていけ

俺は自分のできるだけの怖い顔を作ると、古泉を睨みつけた。

「最後の命令だ、出ていけ」

そう、静かに言うと古泉の体が震える。
そのまま、しばらく俯いていたのだが。
俺は突然立ち上がった古泉にびくりと体を跳ねさせた。
見えた顔は非常に悲痛なもので、俺は顔を歪ませる。

「何で、お前がそんな顔…」
「僕は、あなたが好きだ」
「なっ…!───っ、何して!」

俺は古泉がリンゴに手を伸ばしたのを見て、慌ててリンゴの皿をはねのける。
しかし、時すでに遅し。
古泉の大きな手のひらにはすでに五切れほどのリンゴが握られていた。
それを毟り取ろうとベッドから身を乗り出し、古泉に向かって手を伸ばす。
もう少しでリンゴに手がつくというところで手を引かれ、俺はベッドから転がり落ち古泉の上に頭から突っ込んだ。
痛む額を押さえながらリンゴに手を伸ばせば、その手は古泉のもう一方の手に絡め取られてしまい。
そうこうしている間に古泉はリンゴを一切れ、口にしてしまった。

「っ、ちょ!お前、何考えて!」
「ほら、これで僕の出ていく理由がなくなった」
「はあ?」
「僕も自慰したくてたまりません、するならご一緒させて下さい」

そう、言うと古泉は二切れ目のリンゴを口に含んだ。
瑞々しい果汁が、口元から流れ出て綺麗な顎のラインを流れる。
俺がそれを呆然と見ていると、いきなり唇を奪われた。
繋がった場所から甘い蜜が流れ込んできて、咥内が燃えるように熱い。
ついにはくらくらとしてきて、俺はかくんとベッドに頭を預けた。

「はぁっ、可愛いです、ぼっちゃま…」
「や、めろ!逆らう気か…!」
「出ていって欲しくない癖して」

一瞬時が止まったかと思った。
冷たく俺を見下ろす古泉の視線に、射抜かれる。
なぜ、まだ一月も一緒にいない癖してそんな俺のすべてを分かったような口を聞くんだ。









続く


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!