悲壮美-tragic beauty- 6



古泉が出ていくのを確認すると、俺はすぐさまトイレに駆け込んだ。
便座をあげ、前に座り込むと喉奥に人差し指を突っ込む。
すぐに吐き気を催して、俺は胃の中の物をぶちまけた。

「クッソ、なんだこれ…!」

熱くなって震える体を抱きしめながら、俺はふらふらと立ち上がるとベッドに身を投げる。

おかしい、おかしい。
いつもとは違うこの感じ。
何なんだ、何を考えている。

俺はいやらしく笑う親父の顔を思い浮かべて舌打ちをした。
俺のことがいらないなら、もういらないと捨ててくれた方がましなのに。
こうやって俺を葬り去ろうというのか。
ふざけんな、卑怯者。

俺はベッドの下から大きなトランクを引きずり出した。
がちゃりと重々しい音を立ててトランクが開かれる。
中には小さな小瓶がいくつも並べられていて。

「さぁどれだ?それとも新しいやつか?」

息を荒く吐き出しながら、俺は小瓶に貼ってある表示に目を這わせた。
どれも親父のせいで耐性がついてしまったモノばかり。
…いや、亜砒酸は現在進行形で中毒症状が出ている訳だが。
とにかく、ありとあらゆる毒薬・劇薬を少しずつ盛られ続けたせいで死に至ることはなく、苦しみながらも生きているわけだ。

「何なんだよ、くそ…勘当でも何でもしやがれってんだ」

そうされて俺は別にお前にとやかく言って面倒くさいことにはさせないからさ。
だから、とっとと縁を切らせて欲しい。
俺は小瓶の中に頭を突っ込んでため息をついた。
そうこうしている間も、体を蝕む熱は引いてくれない。
それどころか、熱は信じられないところに集まっていく。

「嘘だろぉ…!?」

俺は股間を押さえてぎゅっ、と唇を噛みしめた。
薬は薬でも、今度は媚薬かよ…!?
トリカブトよりたちが悪いぜ。
それと親父の趣味の悪さに反吐がでる。
古泉を見てからこいつは媚薬を盛ろうと考えたに違いない。
もちろん、狂ったように俺が古泉を求めてしまうことを考えてだ。
それで俺に引いた古泉を屋敷から自然に追い出し、また俺を一人にさせようとしたのだろう。
しかも、いつもの毒のように少量に抑える必要はない(俺は死なないからな)
つまり、さっきのリンゴには大量の媚薬が盛られていたわけで。

「ふぁ、あ、あー!」

じっとりと先走りが下着を通り越してスラックスまで濡らしているのが分かる。
性的なことにあまり興味を持たず、自慰もまともにしたことがない俺にとっては過ぎた快楽でしかない。
とにかくどうにか落ち着かせようと、俺は恐る恐る下着ごとスラックスを引き下ろした。
そこには見たこともないくらいぐちゃぐちゃのペニスがあって。
震える手のひらで、俺はきゅうっとそれを握りしめた。









続く


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