悲壮美-tragic beauty- 4



僕はシーツを丸めて端に置くと、新しいシーツをベッドにかけた。
ぼっちゃまはと言うとぼんやりとソファに腰掛けている。
口元に付いた血痕が余りにも痛々しくて、僕は胸元のハンカチーフを取り出すと彼の血液を優しくぬぐい取った。

「どこか苦しいところは…」
「ない」
「では、気持ちが悪いとかは…」
「ないからそれ、食べよう」

少しだけ口元をあげると、彼はサイドテーブルに置かれたポトフとサラダを指さした。
こんな状態で食べられる訳ないだろう。
僕は首を振ってそれはやめて下さい、と止めた。
こんなに体調が悪げなのに、食べ物がのどを通るはずがない。
しかし、彼は貧血気味でふらふらする体を立たせると、サイドテーブルに向かって歩き始めた。
僕はただただその様子を心配げに見守ることしか出来なくて。

「ぼっちゃま…」
「全部、おまえの自前か?」
「ええ、屋敷のモノは使っておりません」
「そうか、偉いぞ」

にこ、と笑うと彼はベッドに腰掛けてスプーンを手に取った。
そのスプーンで椅子を指してから、次は僕を指して。
ちょいちょいとスプーンを動かしているそれは、こっちにこいよ、と言っているようだ。
渋々目の前に腰掛けると、彼はもうワンセットある夕食を指さしながら。

「おまえも食えよ」

と言ったのだ。
そんなの恐れ多くて出来ないのだが、彼は平気そうにまたポトフを頬張る。
彼が大丈夫だ、と言ったように本当に大丈夫なようだ。
あまりにも速いスピードでそれを平らげてしまったので、僕は驚いて皿と彼の顔を交互に見つめることしかできない。

「お腹、空いてたんですか?」
「ん、あぁ…最近安心して食べられなくて」

それはどう言うことなのだろうかと、僕は頭の片隅で思ったが。
聞いてはならないことのようなので、口を閉ざした。











ぼっちゃまのお料理はすべて僕が作るようになってから数週間たったある日。
僕は所用から彼の実家を訪ねていた。
突然の呼び出しだったため、彼がまだ寝ている間に屋敷を出て。
彼の父親は、今僕が彼のお世話係であるという事を知るとにっこりと笑って今の彼の様子を聞いてきた。

「あいつは元気か?」
「えぇ、僕が来る前はあまり食べれていなかったみたいなのですが、最近は僕の作ったものを喜んで食べてくれます」
「そうか、それは良かった」

彼の父は豪快に笑うと、すっと紙袋を差し出した。
手に取ってみてみると美味しそうなリンゴが大量に入っている。
僕は何だろうかと父親の顔を見た。

「今朝、メイドに買ってこさせたんだ。どうだ、美味そうだろう」
「ええ、非常にみずみずしくて新鮮そうですね」
「是非奴に食わしてやってくれ」
「あ、わかりました」

僕はぺこりと礼をして、それを大事に持ち帰った。



そのリンゴがどのようなものかだなんて気づきもしないで………






続く


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