悲壮美-tragic beauty- 3



ぼっちゃまは非常に不思議な方だった。

歳は僕とそう変わらないだろうから、もっと青年らしい方だと思っていた。
しかし、会ってみればそのイメージは完全に覆されて僕の中に入ってきている。
歳の割には細い体だったし、男の割に肌は色白で、どこか儚げな人だった。


ぼんやりと彼の虚ろな瞳を思い浮かべながら、僕は市場で新鮮そうなレタスを手にとってみる。
お菓子は食欲がないから食べたくないと仰った筈なのに、やはり食べたいとはどういうことだろうか。
とりあえず、相当な気分屋なのかな、と考えてみる。
彼はあっさりとしたものが食べたいと言っていた、何がいいだろうか。
サラダはいるだろうかと、レタスのほかにトマトやコーンやらを購入する。
そういえば好き嫌いを聞いていなかったなと、僕は眉を下げた。








結局、サラダのほかにポトフを作れるだけの材料を買い込んだ僕は屋敷の厨房に立っている。
きれいに野菜を切ると、コンソメスープの中に入れた。
後はじっくり煮込めばそれなりの味になるはずだ。
そこでふと、僕は味を調えるための塩コショウを購入していないことに気づいた。
厨房には様々な調味料があったのでソレに手を伸ばしかけて。

(屋敷にあるものは一切使うな)

彼の言葉が頭の中で響いた。
そうだ、彼はなぜか屋敷にあるものは使うなと言っていたはず。
一体どういう意味があったのだろうかと考えながら、僕はそれから手を引いた。



「お食事を持ってまいりました」

開いた扉の先にはベッドの中でうずくまるぼっちゃまの背中が見える。
部屋は静まり返っていてまったく物音が聞こえない。
僕はゆっくりと彼の元に近づいた。
少しずつ寝息が聞こえてきたが、どうやらそれは穏やかなものではない。
むしろ苦しそうなそれに、僕は彼の肩を揺すった。

「ぼっちゃま、大丈夫で…」

大丈夫ですか、と言いかけて僕は目を見張った。
肩を揺すり、ふと見えた彼の口元に大量の血液が付着していたからだ。
驚いた僕はとっさに手を離してしまう。
どういうことだろうか、彼は何か病を患っているのだろうか。

「こ、いずみか…?」
「え、えぇ…ぼっちゃま、ソレ…は、」
「ん、あぁ…」

ぐいっと口元を拭って、彼はぼんやりとシーツに視線を落とした。
それと一緒に僕もシーツに視線をやる。
ソコには血の海が広がっていて、僕は言葉をなくした。
彼はというと特別驚いた表情はせず、むしろ慣れた手つきでシーツを剥がしている。
少しは驚いた表情を見せて欲しい。
じゃないと、これって…

「いつものこと、ですか?」
「ああ、気にするな」

気にならないはずがない。
僕はどうすればよいのかと、とりあえず彼の手からシーツを奪った。
彼は少し驚いたように目を見開いて僕を見る。

「安静にされて下さい、僕が処理しますから」







続く


あきゅろす。
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