悲壮美-tragic beauty- 2


俺は紅茶だけを啜りながらチラリと古泉の用意しているお菓子を眺める。
見た目はとてもおいしそうで、昔までの俺だったら躊躇うことなく口に運んでいただろう。

「…それ、お前の手作りか?」
「いえ?お父様からの贈り物ですよ?」

そうか、とだけ言って俺は俯いた。
ますます食べたくない。
親父から送られてきたものなんて、食べてやるもんか。
最近では森たちの作る料理でさえ怖いのに。

「…どうなさったのですか?」
「お前、本当に何も知らないんだな?」
「え、えぇ…森さんからは人出が足りないとだけしか伺っておりませんので」

少し困ったような笑顔。
それにちょっとだけ、安心する。

「そうか…お前、料理は?」
「少しは出来ますよ、ぼっちゃまのお口に合うか分かりませんが…」
「それでいい、俺は今後一切お前の作ったもの以外食わん」

驚いたような顔を見せる古泉に背を向けて、俺はソファから立ち上がると部屋の奥のベッドに向かった。
今日は少し体調が悪い、昼寝でもして落ち着こう。
俺は柔らかな布団の中に潜り込むと頭の上から布団を被った。

「材料はお前が買いに行ったものだけ使え、屋敷にあるものは一切使うな」
「は、ぁ…しかし、」
「金ならソコの引き出しに入ってるから好きに持ってけ、俺は久しぶりに何か食いたい気分なんだ、なんか作れ」

それだけ言うと、俺は目を瞑った。
背後で古泉の戸惑う気配がするが、俺はもうそれ以上干渉しない。
知らないでいたほうがいいことだってあるだろう?
そっちのほうが古泉だってやりやすいだろうし、それが俺からのちょっとした優しさだ。
やがて古泉がごそごそとサイドテーブルを漁る音が聞こえてきて。
引き出しが閉まると同時に、古泉が小さな声で尋ねてくる。

「何がよろしいでしょう?」
「あっさりしたもんがいい…」
「承知いたしました、あと、何時に起きられますか?」
「夕食できたら二人分持ってこい」

どういうことだろうか、という感じの曖昧な返事をして古泉は部屋から出て行った。
しん、と部屋がいつもの静寂を取り戻す。
俺は古泉が出て行ったのを確認すると、ベッドから身を起こした。
途端、冷たい汗がぶわっと毛穴から噴出す。

気持ちが悪い、気持ちが悪い。

口元を押さえる。
今回のは、相当たちが悪いようだ。
喉奥からこみ上げるソレを俺はごぽりと吐き出した。
途端、真っ赤に染まるシーツ。
ああ、またやってしまった。

俺はぐいっと口元を拭くと、赤く染まったシーツを剥ぎ、丸めてゴミ箱へ捨てる。
窓は開け放して空気を入れ替えて。
クローゼットから真新しいシーツをひいてしまえば元通りの部屋に戻った。
俺は少しだけ楽になった胸をさすりながら布団に入りなおす。


少しだけ、寝よう。






続く



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