The hole2



「さて、動機を聞きましょうか…あなたみたいなまじめそうな高校生がなぜあんなことを?」
「ただの好奇心だ…悪いことだとは思っていたし、今だって時間が巻き戻せるものなら巻き戻したい」
「ま、誰だってそういうものなんですけどね」
「…だろうな」

俺はため息をついて、視線を落とした。
これからどうしようかだなんて考える。
まずは母さんに連絡が行くだろう、そしたら泣かれるな完全に。
それから学校だ、おそらく停学か、下手すりゃ退学の運命が待っている。
なんだか眩暈がしてきて、俺は俯いた。
そんな俺を可笑しそうに笑ったにっこり男は「提案があります」と人差し指を立てた。

「僕は今、ちょっとした撮影に凝っていまして」
「はぁ…それで?」
「その撮影を手伝って下さるなら、今回のことは見なかったことにしてあげます」

俺は目を丸くした、そりゃ仕方がないだろう。
だって本物刑事が「万引きを見逃してやる」だなんて言っているのだから。
俺は恐る恐る確認をする。

「い、良いのか…?」
「ええ、あなたのような若者の未来が絶たれてしまうのも勿体ないですし」

特にあなたのような優等生のね、と笑うとこいつは立ち上がった。
俺も慌ててその後を追う。
ちゃっちゃと清算を済ませてにっこり男は店を出て行ってしまった。
なんだかカツ丼まで奢っていただいて、申し訳ない。

「そ、そういえば…」
「何でしょう?」
「名前、聞いてない…」

前を歩く男に向かって、そう言ってみる。
するとこいつは綺麗な顔で綺麗に笑って名乗ったのだった。

「古泉一樹です、どうぞよろしく」

そうか、古泉さんか。
俺は適当に名乗ると、皆に呼ばれているあだ名のことを話した。
すると古泉さんは「キョン君ですか、可愛いあだ名ですね」だなんて話しながらずんずん歩いていく。
途中でタクシーに乗り込んで、そして俺はいつの間にか大きなマンションの前に立っていた。

「さあ、ここです」

そういって招き入れられたその部屋はとんでもなく高級そうな一室で。
俺みたいなごくごく普通な、いや、今は犯罪者と言っても過言ではない…が、こんなところにいてもいいのだろうかと頭をかしげる。
するとこの人はまあくつろいでください、と言ってリビングに俺を招き入れた。
俺は戸惑いながらも言われたとおりにソファに腰掛ける。
古泉さんは「コーヒーと紅茶、どっちがいいですか」だなんて言いながらキッチンへ消えていった。

「い、いんだろうか…?」

俺はぽつんと取り残されたまま、頭をかしげた。
だって、犯罪者を逃がしたんだぞこの刑事。
ばれたら大変なことになるんじゃないのか?
悪そうな感じには見えないこの人の将来も同じように掛かっているんじゃなかろうかと思って、俺はぎゅっと手を握り締める。

「怖い顔して、考え事ですか?」
「あ、刑事さん…」

俺はぱっと頭を上げて彼の顔を見た。
優しそうな笑顔が見えて、俺は心に決める。
やっぱりこの人に迷惑はかけられない。





続き


あきゅろす。
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