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Novel
真白の愛 5





止まらない


皮肉にも、時間は進み続ける


たとえそれが

泣き出したいくらい辛いときでも…








「……何てことするんですか先生!!!」


「ロミ夫さん、大丈夫ですか!?」



目の前の相手を罵る声も、自分を気遣う声も、

もう何も聞こえなかった。



ただ、一つだけ分かった―…









「もう、もう俺の知ってる修は…いないんだね」



本当はこんなこと言いたくない。


でも…



「修の中にも、俺はもう…いないんだよね…」


「…」





「今まで…今まですごく幸せだった……」














「………さよなら」













そう言って、涙を流しながら背中を向けた。


もう、振り返ることはない―………



その背中が見えなくなるまで、目を離すことが出来なかった。




「…ロミ夫さん!!!」

「…ちくしょう、こんなことってねぇよ!!!」







今、あいつは俺になんて言った?


なんて………










(さよなら)











その時、急激な痛みが頭の中を駆けめぐった。

割れるような、何かがはじけるような痛み。



「…っ!!!!!!」



「先生!!!」

「DTO先生!!!!」





薄れる意識の中、聞こえるのは
最後の、あの言葉だけだった…


自分の中にいないはずの

あいつの言葉……















「まさか、こんな事になるとは…」


「わしらも予想はしていなかったな…」




校庭で倒れ保健室に運び込んだ後、様子を察知し駆けつけたジズとロキが顔をしかめる。



「もう…どうしようもないんですかね…」



溜め息しか出てこない。
まさか、最愛の恋人を突き飛ばすなんて事があるなんて…



「いや、もしかしたら…チャンスかもしれません」


「え?」


「もしこやつが、ロミ夫とやらに何らかの影響を受けたのならば、少しでも何かを思い出すかもしれぬ」



ロキの言葉を聞いていた二人は、ただ、思い出すことを祈るしか無かった。




―――








ここはどこだ?

何もない、真白の世界……




居心地が悪い…

何かを忘れてしまったような…

そんな…




何かが聞こえる。
誰かが俺を呼んでいる…





(…修…)




誰だ?

俺を呼ぶのは…




(…修…)




高くて、優しい
甘みを含んだ声。



忘れていた何かが
戻ってくるような…



(修………大好き)













「……………ロミ夫」










紛れもない、
俺が世界一好きな声

愛する存在。




手に入れなければ…


失ってはいけない……






―――







「………先生!!先生!!」

「DTO先生!!」



気がついたら、ベッドに寝かされていた。


自分を呼ぶ、生徒と同僚の声。








「……………………違う」



俺は、一体あいつに何をした?



今、あいつはどんな思いでいる?







そう思った時には、もう飛び出していた。



「先生!!!!」



「どうやら…思い出したようですね」


「マジで!?」


「あとはあいつら次第じゃな…」













―――



何も分からない

何も聞こえない…


きっと、俺じゃ力不足だったのかな…


もう、責める言葉と
涙しか出てこない…



「…ふ…うっ…ひくっ…修ぅ…」



後から後から溢れてくる


手で抑えても、あふれ出て止まらない。



手が涙で濡れそぼって、手首を伝って服に染み込んでいく。



「…ぐすっ…修……修ぅ……」












その時


涙で濡れそぼった手が

暖かい何かで包まれる




気がついたときには

体全体が包み込まれていた―…














「………ロミ夫……」








もう、聞くことはないと思っていた


大好きな声で、名前を呼ばれる




「………修…?」



修が、俺を抱き締めている…

信じられなくて、顔を上げることが出来なかった。




「……ごめん、ロミ夫、ごめんな……」



あぁ、間違いない

修だ…

俺の大好きな……


「…思い出して…くれたの?」



震える声で問いかけると、尚きつく抱き締めて答えてくれる。


上げられなかった顔を恐る恐る上げると、

涙が流れ、光が戻った瞳と目が合った…





「ロミ夫……ごめんな……ごめん…」


「……泣かないで、修…」


「お前が、今までどんな思いでいたかと思うと…」


「もう…大丈夫だよ」


「俺は……俺はお前に最低なことを……」


「もう気にしないで…」


「でもよ……!」


「思い出してくれただけで、嬉しいから……」




そう言って、目の前の顔を、涙で濡れた手で包み込む。




「ロミ夫……愛してる」

「俺も…愛してる…修……」





視線がかち合い、唇が重なる。


涙も吐息も全てが溶け合う。



もう二度と

離れることのない




真白の愛…





END

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あきゅろす。
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