Novel
真白の愛 2
その夜は一睡も出来なかった。
大好きな人の安否がずっと胸を締め付けていた。
いつも起きる時間よりもずっと早く家を出る。
とにかく、とにかく安否が知りたかった。
無事なのか…この目で確認したかった。
勤め先の高校に向かうと、登校する高校生に混じり知った顔を見つけた。
「あれっ?ロミ夫さんですよね」
「あっ…ハジメ先生」
同僚の教師の顔を見つけ、曇っていた顔を抑える。
「どうしたんですか?これから出勤ですか?」
「いえ、あの…修はもう来ていますか?」
真っ先に知りたいことを投げかける。
痛みが心臓をおさまることなく締め付けていた。
「あー…今日はまだ来てないですけど…どうかしたんですか?」
まだ来ていない。
その言葉に思わず顔を歪めてしまう。
まさか、本当に何かあったのでは…
「あっ、来ましたよ、ほら」
指を指す先には、知った顔の生徒と、
紛れもなく、昨日から思い続けた者がいた。
「修!!」
姿を見つけ、締め付けていた胸が安堵に変わっていく。
そのせいで、何かが大きく変わっていることに気づかなかった。
何かが…
全く違っていることに。
「昨日は…どうかしたの?
心配したよ…」
「…?」
「でも、何もなくてよかった…」
「…」
「すっごい心配したんだよ…」
「…」
「…修?」
先ほどから話しているのは自分だけだということに気づき、不思議な感覚に陥る。
なんだろう、
この…胸騒ぎは…
「先生、ロミ夫さんに心配かけちゃ駄目じゃないっすか〜!」
隣の生徒にからかいを含んだ声で投げかけられても、目の前にいる想い人は一向に口を開かない。
「どうか…したの?」
どうしようもない不安が胸を掠めるが、恐る恐る声をかける。
その声でようやく閉ざされていた口が開いた。
信じられない言葉を発して…
「…………誰だお前」
一瞬、何が起きたのか全く分からなかった。
そして、頭が覚醒したころには、蓄積していた不安がみるみる内に肥大化していくのが分かった。
「……………え?」
誰って…誰って…
「ちょっ!何言ってるんですか先生!!」
「リュータ、お前の知り合いか?」
「ふざけないで下さいよ先生!!」
「あぁ、それかお前か?一緒にいたもんな」
目の前で行われているやり取りも目に入らないほど動揺していた。
どうして…?
「もう、マジふざけないで下さいよ!
ロミ夫さんじゃないですか!!」
「喧嘩でもしたんですか?」
「はぁ!?」
同僚と生徒に疑問の目を向けられ、侵害とばかりに顔をしかめる。
そこに、昨日までの想い人の印象は無かった。
「知らねーよ、
部外者校内に入れんな」
その時、時間が止まった気がした。
周りの人も、空気も、全てが。
どうして…………
「忘れちゃったんすか…?」
「だからもともと知らねーっつってんだろうが!
見たこともねーよ」
自分に向けられる目が、もう以前のような優しく、暖かい光を持った瞳では無かった。
有るのは、不信感と、悪意に満ちた、光を失った瞳。
そんな瞳で、見られるなんて
昨日までは、思いもしなかった…
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