恋愛競争社会
7
結局マックでやること済ましてそのまま学校に直行したら八時。マックに入ったの五時半じゃなかったっけ？マックから学校まで三十分強。どんだけ時間かかってんの、俺。
いやー。それにしてもやることがやることだったし、結構疲れた。気疲れってやつ？なんかもう、めっちゃ頭使った。もう今日は何も考えられないレベル。あーあーあーあー。
まず最初に携帯料金立て替えてくれてたオジサマに連絡。これがかなり疲れた原因。
俺を信じてくれてたというか、そこそこ面倒見のいいオジサマだったから失礼のないようにするのがまあ大変。
だって、未成年の俺が携帯を持ててる理由ってのが、このオジサマ名義で買ってたからだったりする訳で。
流石に買うのは俺の金で買ったし、普段の使用料金も俺が払ってたけどやっぱり、ね？
しかも、オジサマの家に携帯料金請求書を送りつけ、それを立て替えてもらい、次エロいことをするときに俺がまとめて払うっていうのがいつものパターンだった訳だし。
次エロいことをするのがいつになるやらな現状を、オッサンのことを隠しながら、けれども他の人に鞍替えするような誤解を与えないように伝えるってのがなかなか骨が折れた。
ちゃんと伝わったのかどうかは置いといて、｢今月分までは立て替えといてあげるから。卒業祝いだよ。このまま使いたいなら、解約もしないから自由に使って。新しい請求書の送り先を送っておいてね」とか言ってもらっちゃって。これがまたなんとなく罪悪感。
お言葉に甘えさせていただくことにはしたけど、思わず「うあー｣って感じ。恩をあだで返してしまった気がして朝からグロッキー。しかもわざわざ携帯ショップまで行ってくれるんだって。あーあ。
そんで、今週エロいことする予定だったオニーサンたちにお断りのメール。中には短気な人もいるから、これがまた気疲れするわ頭使うわで朝からげっそり。……もうこういうことはやりたくない。
朝のうるさいクラスで机に突っ伏してて死んだフリをする俺。
いつもなら嫌でしょうがない周りの目線とか声とか、もうそんなことどうでもいいってレベルで疲労してる。
登山した後にマラソン走ったくらいの脱力感。もうなにもしたくないし、一ミリも動きたくない。
｢はよ、綾瀬。さっきぶり｣
……今お前の相手する体力残ってないから。早くあっち行けよ、KY。
｢っていうか今朝はビックリしたわ。綾瀬確か逆方向に帰ってたじゃん？何回か見ただけだけどさ｣
ふーん。なに勝手に俺のこと見てんの？ふーん。
なんか身体が軽くなったけど、顔を上げるようなことはしない。
だってそしたらコイツもっと調子に乗るし。
というか、お前こそなんであんな時間からランニングとかしてたんだよ。健康志向とか？……うわっ、ありえそう。
「引っ越した的な？」
今日お引越し的な？とは流石に言わない。
「……お前こそなんで朝っぱらからランニングしてたわけ？」
絶対に話しかけないって決めてたけどなんとなく気になって聞いてしまった。突っ伏してた顔を上げると思ってたよりも明るいわ人が多いわでうんざり。
「部活のためのトレーニングってやつ。俺、こう見えても剣道部なんだよ」
へぇ。剣道ってことは胴着着んのか。胴着な、胴着。ふーん。なんか想像してみるとエロい。
細マッチョ気味のコイツが汗臭い胴着着て格式ばった剣道とか、ヤバイじゃん。そんで、部活終わったらイロイロ蒸れてるわけだろ？なにそれ。想像だけでもヤベェ。
「なに綾瀬？綾瀬も剣道してんの？」
「は？｣
「だってなんかニヤニヤしてたからさー｣
マジかよ俺今顔に出てた？ヤッベ。本心に気付かれてはなさそうだけど、なんかこう、プライド的に無理。
コイツにときめくのは仕方ないにしても、それをコイツに気付かれるのはスッゲェムカつく。
コイツのルックスがタイプなだけで中身に関してはありえないからなんだろうけど。
だってこれがもし中身もタイプの奴だったり、尊敬できる奴だったりしたらそういうのは無さそうだし。
というか俺なんで顔に出したんだよ。ねぇよ。
奴には「別に」とだけ返して机に突っ伏した。奴も奴で「なーんだ｣というと違う話題を出してくる。
コイツがよくしゃべるのは前から知ってたけど、よくこんなに次から次に新しい話題がホイホイ出てくるな。芸能人でもそんなに話すネタ持ってねぇよ。
｢そういえばさ、綾瀬携帯持ってないの？アド交換しようぜ｣
は？どの話の流れでそうなった？
というか、こういう軽いノリっていうか、目的のないアド交換ってしたことないんだけど。いつもアド交換するのって、エロイことしてくれるお相手さんだけだったし。
別に嫌じゃないけど、俺にとっては新鮮なことなのに、コイツにとっては自然で当たり前で、しかもその他大勢と同じって思うと意味もない敗北感。
「携帯忘れたとか？とりまここ書いとくからさ、アドレス」
余計な気まわしてんじゃねぇよ。
俺の筆箱から勝手に取り出したシャーペンで、勝手に俺の机にアドレスを書いていく奴。
思ったよりも綺麗な字で書かれた『松村翔』という名前と添えられたアドレス……ふーん、携帯会社同じじゃん。
って、ちょっと待てよ。もしこれを俺が登録したとして、メール送るとすると、俺がめちゃくちゃコイツとメールしたいみたいになるんじゃね？
無理やりメルアド聞き出されていきなりメール送られてきたとか、強引に登録させられたとか、そういうのは勿論嫌だけど、なんかこう、口実？みたいなのできるじゃん。
でもこれだと、俺が自発的にこのアドレスを登録して、メール送ることになるんだろ？え、無理無理無理無理。なにそれ、ありえない。
すっごいノリ気みたいんじゃん。積極的みたいになんじゃん。そういうの無理だから。
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