時の破壊者との出会い
―仮想19世紀末・イギリス
「ここで調査、ねえ…」
ルナ・クレージュは持っていた杖でポンポンと軽く肩を叩くと、その杖を持ち直した。
「君に、調査を頼みたいんだ。場所はイギリス。出来れば捜索隊じゃなく、君に行って欲しい」
数日前、徹夜明けのルナが科学班の書類とにらめっこしていると、コムイ・リーに呼び出された。
「一年間、君が日々頑張っているのは知っている。その気持ちがあるなら君はこういう任務をこなしていくべきだと思うんだ」
「………その任務、受けるわ」
二つ返事で受け入れたはいいが、実際に来てみると何をしていいのかわからない。
(平和そうな町…)
こんな平和で綺麗な町は、こんな暗い辛い戦争に関わってはいけない。
その時、そんなルナの思いを裏切るかのような声が聞こえてきた。
「アクマだ―!」
少年の叫び声だった。ルナは杖をぎゅっと握り締め、声のした方へ駆け出した。
「アクマは………え?」
ルナが駆けつけるとそこにアクマの姿はなかった。代わりに町の大人たちが集まっていて、一人の少年をまるでいたずらっ子を咎めるように囲んでいた。
「ジャン、またお前か!」
大人の一人が叱る。状況がよくわからないルナは少年を囲む輪から少し外れて見ていた。
そこに他の少年の声が割って入る。
「大丈夫ですか?アクマはどこ…?」
身なりがよく、白髪だがよく見ると少年だった。ルナ同様に駆けつけて来たのだろう、息を少し切らしていた。
「あ―悪いな、こいつのイタズラなんだ」
「こいつはいつもこうやって騒いで大人を困らせてるんだよ」
大人たちが白髪の少年に言うのを聞き、やっと状況が掴めた。これはこのジャンと呼ばれた少年のイタズラだということだ。
「本当だって!」
ジャンは大人達に反論した。
「今そこでこのホームレスのおっちゃんが殺されて、アクマに…」
ジャンは大人相手に必死に説明したが、途中で真後ろにいた男に口を塞がれて、言葉が途切れる。
「ったく、いい加減にしろよ、ジャン」
「次は相手にしないからな」
大人たちは口々にそんなことを言いながら去っていった。
ルナもイタズラだとわかり立ち去ろうとしたら、先程の大人がまだジャンの口を塞いでぴったりとくっついているのが目についた。その姿から人間ざらぬものを感じた。
先程の少年の言葉にあの男。脳裏に一つの考えが浮かんだ。
(まさか…)
ルナは僅かに躊躇ったが、杖をしっかりと握り、ジャンの元へと駆け出し、彼を突き飛ばし、男を杖で殴ると一歩下がり、向き合い杖を構え直した。予想通りだ。男が転換してアクマの姿が現れた。
だが、明らかにこちらに分が悪いことはわかっていた。この杖でアクマは倒せない。
「僕の目はごまかせないよ」
膠着状態の中、少年の声が聞こえた。
見ると、アクマの後ろに白い、大きい手のようなものがあった。それは先程の白髪の少年のものだった。
「君はアクマだ」
少年が静にそう言うと、そのアクマは破壊音と共に壊れた。
「エクソシスト…」
ルナは驚いたようにそう呟く。
「あ、あなたは…」
「キャーッ!エクソシストだ!」
何者?と訊こうとしたルナの言葉はジャンの声に遮られた。
少年はジャンに突き飛ばされ、下敷きになっている。それにもかまわずジャンは喜びを露わにして興奮している。
「あー…」
ルナはその光景に頭を抱えた。
ルナが興奮の収まったジャンに、なぜアクマやエクソシストについて知ってるのかと尋ねると、彼は、父親がヴァチカンの科学者で、父親の資料を見て、アクマのことを知ったと答えた。
「いつか俺も、すげー科学者になってアクマを一瞬で消すような兵器を造んのが今んところの夢!」
ルナとアレンと名乗った白髪の少年と三人で町を歩きながらジャンはそう言い、そしてアクマによほど興味があるのか、アクマやエクソシストのことを次々と尋ねる。
「今までどれくらいアクマ壊した?その対アクマ武器はどうやって手に入れたの?初めてアクマ壊した時、どんな気持ちだった?」
次々と出てくる質問にアレンは困ったような顔になり、そして言った。
「…ジャン、あまりクビを突っ込まない方がいい」
「そうね、そんなこと続けてたらいずれ伯爵の目に止まる。危険よ」
アレンの言葉にルナも続く。その言葉にジャンはムッとした顔になり、あげると一言言って、アレンの手に何か渡した。
アレンが何かと見た瞬間、それは爆発した。しかし火が出た訳ではない。
「うわっ」
ルナは思わず目を閉じ、鼻を摘む。アレンはというと、目から大量の涙を流している。
「オレ発明のタマネギ爆弾だい!」
ジャンは勝ち誇ったようにそう言うと、去っていった。
「あ、ちょっと待ちなさい!」
ルナはジャンを追いかけようとしたが、ジャンはローラー付の靴で猛スピードで逃げていったため、すぐに見えなくなってしまった。ルナはため息をつき、地面に座り込んでいるアレンの方を向く。
「アレン…だったわね?大丈夫?」
「え、ええ…なんとか……あの、あなたは…?」
ルナが差し伸べた手を取り、立ち上がる。
「私はルナ・クレージュ。教団の人間よ」
「…!教団の…!」
「あなたは…エクソシスト?」
「あ、はい。師匠のクロス元帥に言われて、本部に挨拶に行くところです」
クロス元帥という言葉にルナはギョッとした。
「あ、あなた…あの人の弟子なの…?まさかあの人もこの町に…?」
「あ、いえ、師匠は本部が嫌いだって言ってバックレまして…。師匠を知っているんですか?」
「あ、ええ…ちょっとね。…それより、力を貸してくれない?」
「え?」
お願い、と手で示すルナにアレンは首を傾げた。
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